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小鳥もパニック寸前になりそうだった。いま停車しているMR2の背後はダム湖。コンクリートの壁。バックをすることができない。進めばランエボと衝突する。なのに向こうはいまにもこちらに向かってきて、衝突しようかと脅かしている。
つっこんできたら、向こうだって車体が潰れる。それをわかっていて何故こんな勝負を仕掛ける?
こちらはホンマものの『背水の陣』。前へ進むことしかできない。こっちから衝突させて、賠償金でも払わす『当たり屋』?
とにかく、質が悪い車に絡まれている最悪の状況だった。
ブウン、ブウン――。エンジンを唸らせてばかりかと思えば、きゅっと発進してはぎゅっと停車して、小鳥を惑わしている。
だけど小鳥は考えている。右か左か。アクセルを踏んだらハンドルを切って横に逃げるしかない。だけれどそれはランエボもわかっているはず。
きっとランエボも賭けている。MR2が右に出るか左に出るかと。出てきたら頭からぶつかる気満々なのが伝わってくる。
とにかくMR2を潰したい。その意志がひしひしと伝わってきた。
「右か左しかないなら。行くしかない」
ブウン! 小鳥も負けじとエンジンをふかした。夜の駐車場に、白いランエボと青いMR2がエンジンをふかして威嚇する。
行くよ。小鳥はハンドルを握る。ギアを動かし、アクセルを踏んだ。
キュルキュルとタイヤが鳴り、MR2が直進する。右にも左にも行かなかったことが予想外だったのか向こうが慌ててバックした。隙ができた。小鳥はハンドルを右に切ろうとした。
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