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瞬間、あちらがドライバーとしては一枚上手か! ランエボも咄嗟にハンドルを切り、小鳥と同じ右に頭を振ってきた。MR2とランエボのバンパーとパンパーがぐしゃりと当たった!
やっちゃった!
ガンという衝撃の中で、ボディがへこんだ感覚!
危機を感じた小鳥は咄嗟にギア切り替え、MR2を素早くバックさせた。
今度は、MR2の後部から『がしゃん!』という激しい音が響き、小鳥はさらなる衝撃に襲われた。
嘘だ。嘘! 小鳥は泣きそうになって、後ろに振り返った。
ぶつけた。後ろのコンクリートの壁にぶつけちゃった!
前と後ろ、どちらもぶつけた! お兄ちゃんから引き継いだMR2を、初めてぶつけた!!
もう頭が真っ白だった。ランエボのことなど……。
ハッと気がつくと、目の前のランサーエボリューションがゆっくりとバックをして暗闇へ溶け込むように遠のいていく――。
フフフと嘲笑うように。まだ運転が未熟な年少者の無様な姿を確かめて、悦に浸って余裕で去っていくその姿に小鳥は怒りを覚えた。
「待て!」
ムキになるなよ。父ちゃんの言葉も、かき消えていた。あんのランエボめ、とっつかまえてやる! 恐怖もすっ飛んでいた。
だがそこで、助手席にあるスマートフォンが鳴った。翔からの着信音だと気がついた小鳥の熱がさっと冷める。
ハンドルから手を離し、小鳥はそのままシートに身を沈め、深く息を吐いた。
ランサーエボリューションが下りの峠道へと消えていく。高らかに響かせるエンジン音が憎たらしいほど。
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