7.エンゼル、ごめんなさい

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 脱力。カレシの部屋に元カノが子供連れで戻ってきているし。こちらはこちらで、初めて質が悪い車に絡まれた。しかも、車……。大事なMR2が傷ついた。  スマートフォンを力無く取り、小鳥は耳元にあてる。 『小鳥、どこにいるんだ』  その声を聞いただけでホッとする。 「お兄ちゃん、私、あのね、いま……」  やっと涙が出てきた。大事な車を壊された。質が悪い車に絡まれたのは、悪い男に襲われたような、嫌な気分。 『お前はなにも気にしなくていいんだから。帰ってこい』  そして小鳥は気がつく。翔が電話しているその向こうで、まだ赤ちゃんの激しい泣き声がした。 「瞳子さん。まだいるんでしょう。私が行ったら、変にこじれるよね」  翔の深いため息。疲れ果てた彼の声が届く。 『よほど感情的になっていたのか、子供を置いて飛び出していったんだよ。そうでなければ、小鳥を探しに俺もスープラに乗っている。だけど赤ん坊を置いて行かれたから、いま出て行けないんだ』  え、子供を置いて出て行った!?  そっちもかなり衝撃的展開! 「な、な、なんてことなの。じゃ、あ、お兄ちゃん……、もしかして、いま、赤ちゃんと?」 『ああ、二人きりだ。もう泣きやまなくて困っているんだよ』  それは大変! 小鳥はすぐに背筋を伸ばす。 「お兄ちゃん。私、すぐ行くから。待っていて!」  スマートフォンを助手席に放り、小鳥は再びMR2のハンドルを握りしめ、アクセルを踏んでいた。  走り始めて気がつく。片側のライトがやられている。片方しか光っていない。  ……惨めだった。前も後ろも、エンゼルを傷つけてしまった。  だけど、もう小鳥の心は、翔へと向き直っていた。
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