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なんてこと。お兄ちゃんの元カノが精神不安定で訪ねてきて、赤ちゃんを放ってどこかに行ってしまうだなんて。お兄ちゃんが一人で困っている。自分になにができるかわからないけれど、小鳥はもう真っ直ぐに港町へと傷ついたMR2で向かっていた。
カーブを曲がるたびに、ライトが照らす光が片側だけで胸が痛む。
「ごめん、エンゼル……。守るためだったはずなのに。こんな守り方しかできなかった」
悔し涙に、情けない涙。なにもかもぐちゃぐちゃにして、でも小鳥は彼の元へと向かっている。
―◆・◆・◆・◆・◆―
急いで翔の部屋に戻ると、ふぎゃふぎゃと泣きわめく赤ちゃんの声が響き渡っている。
玄関からリビングに駆け込むと、疲れ切った翔がそれでも赤ちゃんを抱いて、部屋の中をうろうろと歩いていた。
「お兄ちゃん」
「小鳥。大丈夫だったか」
大丈夫じゃない。MR2が壊れた。ううん、壊された。でも小鳥はそう言いたいのをぐっと堪えて、赤ちゃんへと駆けつける。
「どーしよう。きっとお母さんがいなくなったことをわかって泣いているんだよ」
翔の腕から自分の腕へと抱き変える。それだけでも翔兄がほっと人心地ついた顔をした。
「わ、オムツぱんぱんじゃん」
「俺、買いに行ってくる。どんなのを買えばいいんだ」
「うーん。このぐらいの子だと、いちばん小さなオムツでいいんじゃないかな」
「いちばん小さなオムツ? サイズ表示はなんだ。SとかMとかLで表示されているのか? それとも月齢? 行ってみたらわかるものなのか」
流石のお兄ちゃんも、こればっかりは知識なし。見たこともない顔で唸っている。
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