1.今夜おいで

7/11

2648人が本棚に入れています
本棚に追加
/316ページ
「俺も、祖母ちゃんのバラ寿司、食いたい」  そして小鳥も。 「私も、お祖母ちゃんのバラ寿司大好き。あとね、お母さんのビーフシチュー」  弟たちも『いいね』、『いいな。俺も母ちゃんのビーフシチュー』と同調してくれ、やはり三姉弟、子供の頃から食べてきたものが一緒で、好物も揃ってしまう。  琴子母も嬉しそうに『はいはい』と受け答えてくれる。そんな子供達と母親を見て、英児父も笑っている。だがまた英児父が険しい顔つきになる。 「話はまだ終わっていない」  いつもは誰よりもおおらかで豪快な父ちゃんが、ここぞという時に見せる顔だと誰もが気がつき、お喋りを止める。 「二十歳になった。お前達が望んでも望まなくても、ささやかながら晩飯はご馳走という誕生日会を準備してきたが、小鳥の祝いは今年で終了だ。いいな。大人になったんだ。来年からは一緒にいたいと思った友人と過ごしたり、自分のための日と思って歳を重ねていけ」  いざというとき、この元ヤン親父の言葉はとても重く、そしてそれが小鳥や弟たちを歩かせてくれる。 「うん。わかった。いままで美味しいごちそうで祝ってくれて、ありがとうございました」  お辞儀をすると、弟たちがしんみりして妙に大人しくなってしまった。姉弟でいちばん上の姉が最初に成人し、そこで初めて両親がどう考えているか知ったからなのだろう。  いつまでも小さな時のように大事に大事にしてくれているわけではない。ここで、ある程度突き放す、手を放す、大事に繰り返してきたことをやめる。そんなことも考えていたのだと。
/316ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2648人が本棚に入れています
本棚に追加