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小学五年生の時、母の親友で武ちゃんの奥さんでもある『紗英ちゃん』が出産をした。四十歳を超えていたというのに『これが最後のチャンス』と高齢出産をして、しばらくはその一粒種の男の子が龍星轟で小さなアイドルになったことを思い出す。
自営業だったので、父親の英児が良く預かって不慣れな武ちゃんに先輩パパ面大全開で面倒を見たりしていた。歳が離れた弟がまたできたと、小鳥も良く面倒を見ていた。
といっても。あれってもうだいぶ前。いまはその小さな武ッ子は生意気な小学生。小さなママ気分でオムツを替えたのも遠い昔だった。
「ネットでわかるんじゃないの」
「そうだ、そうだった」
冷静さも失っているのか、いつもならお兄ちゃんがテキパキ思い付きそうなことを、年若い小鳥に言われて気がつく始末。相当、気が動転していると見た。
だけれど翔は苛立った様子で、いじっていたスマートフォンをいきなりソファーへと放り投げた。
「むちゃくちゃ非効率だ。だけどこのままでは……」
らしくなく黒髪をくしゃくしゃとかいたかと思うと、翔はまたスマートフォンを手に取った。
「くそ。母さんに聞いてみるか」
「え、お母さんって。桧垣のお母さん?」
「ああ。詳しい人に来てもらうのが一番だろ。俺が実家にこの子を連れて行ったら二十分くらいでなんとかなるだろ」
「ま、待って。その前に瞳子さんは? 探さなくていいの?」
「携帯の番号を変えられていて、俺は知らないんだよ。そのうちに帰ってくるだろうと待っていても、もう小一時間帰ってこないんだぞ。こっちも宛にならない」
確実に行く。それが桧垣のお母さんを頼ることだった。
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