7.エンゼル、ごめんなさい

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 だが小鳥は咄嗟に、翔の手からスマートフォンを取り上げてしまう。 「ダメだよ! 元カノの子供を押し付けられて息子が困っているだなんて。お母さん、びっくりしてショックを受けるよ。しかもこんな夜に突然赤ちゃんを連れて行っても、桧垣のおうちでもすぐに準備できる訳じゃないでしょう」 「じゃあ。とにかく、ドラッグストアで片っ端からベビー用品を買いに行ってくる」  効率的にできないなら、非効率でも良い。とにかく行動をすると翔がいきりたった。  そんな彼を見て、小鳥も一生懸命になってなにか良い方法がないか考えた。そして――。小鳥は自分のスマートフォンをデニムパンツのポケットから取りだし、赤ちゃんを抱いたまま電話をしてしまう。 「小鳥?」 「おなじお母さんなら、うちのお母さんでも良いよね」  翔が戸惑った顔をする。それもそうか。上司の奥さんにこの状態を知られることになるのだから。しかも娘が部屋に来ているだなんて。 「どちらかというと、桧垣のお母さんより、うちのお母さんのほうが、お兄ちゃんと瞳子さんの事情は知っていると思うんだよね」  男の子はまったく近況を教えてくれない。琴子母が時々そう言う。そして英児父は『男はそんなもんだ』とも言っていた。だから翔兄もきっと、瞳子さんは紹介していても、何故どうして別れたかなどは男として、特に母親には言えていないはず。  それよりかは、彼の日常を間近で見ている『親父さんとオカミさん』の方がまだ事情を把握している。そう思ったのだ。  そして翔も、小鳥の決断に戸惑いはあっても、それは確かだと納得してくれたのかもう止めはしなかった。 「お母さん。小鳥だけど……あのね、実は……」
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