7.エンゼル、ごめんなさい

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 簡単に事情を説明した。小鳥の腕にはぐずぐず泣きっぱなしの赤ちゃん。きっと母の耳にもその声は届いているだろう。 『ごめんなさい。小鳥ちゃん。お母さん、いま締めきりの依頼が重なっていて、今日も夜遅くまで残業で帰れそうにないのよ』  母の仕事は、昔から不規則な業務時間が特徴で、残業期間になるとほんとうに帰ってこなくなる。ちょうど、その時期だった。 「じゃあ、お母さん。教えて。どうしたら泣きやむのかな」 『わかったわ。なんとかするから。十五分だけ時間をちょうだい』  え、たった十五分? 首をひねってどうしてか問い返そうとしたら、もうそこで琴子母が電話を切ってしまった。 「え、切れちゃった」 「オカミさん、なんと言っていたんだ」 「十五分だけ時間をちょうだいだって」  十五分? 翔兄も首をひねった。 「オカミさん、まだ三好堂印刷にいるんだろ。ゼットを飛ばしてきたとしても、あそこからこの港町まで早くても三十分はかかる」 「だよね。なにか調べて教えてくれるのかな」 「調べなくても、オカミさんなら子育てベテランだろ」  それでも赤ちゃんはふぎゃふぎゃ泣いてばかり。 「すごいね。赤ちゃんって。こんなに泣いても疲れないのかな?」 「もう、全力で一時間だぞ。そのうちに気絶するんじゃないかとか、死んでしまうんじゃないかと生きた心地がしなかった」  小鳥が来るまでは――。翔兄が小さくそう呟いたのが聞こえ、小鳥はふと……お兄ちゃんを見上げてしまう。 「戻ってきてくれて、良かった。本当に瞳子とはあれ以来連絡だってしていない。ただ、俺がここから引っ越していないだけで」  大きな手が小鳥の頭をそっと男の胸へと抱き寄せてくれる。
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