2648人が本棚に入れています
本棚に追加
もう一つの長い腕が、今度は小鳥の背をぎゅっと抱きしめてくれる。
「お兄ちゃん……。私こそ、深く考えないで見ただけで飛び出しちゃってごめんね」
飛び出したその先で、酷い目にあったよ。きっとお兄ちゃんから簡単に逃げた罰だったんだね。
彼にそれを伝える前に、涙がこぼれた。
「ごめんな、小鳥。巻き込んで」
「ううん。大丈夫」
彼が何度も何度も黒髪を撫でて、側に抱き寄せて離れてくれない。
おかしいな。そうしていたら、赤ちゃんの声が少し小さくやんできた。でもまだ指をくわえてぐずぐずしている。見ていると胸が痛む。
「ママ、ちょっとだけ疲れていたんだよ。すぐに帰ってくるよ」
「うん。そうだな。あいつ、昔から完璧主義で、自分が思い描いたとおりにならないと、ああやって癇癪を起こすタイプだったからな」
そうだったんだ。とてもきちんとした大人の女性で、だからお兄ちゃんは彼女を八年も愛すことができるんだと、小さな小鳥は思っていた。
でもあの姿が、とてもムリをして作られていたものだったのなら。女性として自分自身の管理は上手くできても、結婚はそうではなかったのかなとふと感じてしまった。
ちょっとだけ、お兄ちゃんも小鳥も赤ちゃんも落ち着いたように、張り詰めていた空気がほっと柔らかに緩んだような気がした。
その途端だった。チャイムが鳴る。
二人はその素早い母の対応にギョッとした。
「え。まだ十五分も経っていないよね」
「ああ。十分も経っていない。七、八分?」
どういうことかと二人で顔を見合わせる。
揃って玄関へ出向いた。勿論、家主である翔が玄関ドアをそっと窺うように開けた。
最初のコメントを投稿しよう!