8.こんな時の、お父ちゃん

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8.こんな時の、お父ちゃん

「琴子から連絡があってよう。翔の家で緊急事態。赤ん坊が大変だからすぐに行ってくれと尻叩かれて、慌ててすっ飛んで来たけどよ! なんじゃ、こりゃ。説明せーや!」  どっしりとした一歩で、英児父が翔の家に踏み込んできた。  その大声に驚いたのか、小鳥の腕で少しだけ大人しくなっていた赤ちゃんが、またぎゃあっと泣き出した。 「わ、やべえ。わりい、わりい。おっちゃん、ちょっと慌てていた」  やっといつものおおらかな親父さんの顔に緩んだ。 「おい、おまえら。手伝え」  靴を脱いだ父がどっかりと上がり込み、当たり前のようにして翔という部下の家の中へずかずかと進んでいく。  琴子母は十五分といっていたのに、十分もしない内に到着するあたり、流石『照準定めたら一直線、ロケット親父』。もう小鳥もなにも言えない。  リビングに入ると、父が部屋を見渡した。 「瞳子さん、大きなバッグとか持っていなかったか。それも持って出ていっちまったのか」  頭に血が上って『説明せーや』といきりたっていたものの、琴子母からすべて事情を聞いているようで、英児父はしっかりと状況を把握していた。 「あ、そういえば。大きなバッグを持っていました。ベッドルームにあるので持ってきます」  すぐにそのバッグを持ってきた翔が、英児父に差し出した。 「それだよ、それ。ママバッグていうんだよ」  あまりにもスタイリッシュなバッグで、ママバッグには見えなかった。  英児父はそれを翔から受け取ると、躊躇わずに中を開けた。 「ほら。オムツに、ミルクの準備がしてあるだろ」 「本当だ。すみません。勝手に女性のバッグを開けてはいけないと思って気がつきませんでした」
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