8.こんな時の、お父ちゃん

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「最近、あの峠で白のランエボにやられた車の修理が増えているんだ。小鳥がダム湖を走っていないか心配で連絡をしていたんだけれど、遅かったか」  翔が悔しそうに唇を噛み項垂れる。小鳥もあの後、すぐに彼からの連絡を受け取っていたらあんなことにならなかったのかもしれない。ちょっとした意地みたいなものが、あのようなことを招いたのだきっと。  それに、知らなかった。ここのところお店が忙しそうで、そういえば修理車が多いなとは思っていた。まさか、いつも楽しんでいる場所がそんなふうに荒らされていただなんて――。  シンと静まりかえった翔の部屋で、また赤ちゃんがふぎゃふぎゃと盛大に泣き始める。英児父がはっと我に返った。 「その話は後だ。小鳥、急いで行ってきてくれ」 「はい。行ってきます。お父さん」 「気をつけてな。慌てるなよ」  頷いて、マンションの外に出る。  マンション横の路肩、青いMR2の後ろに黒いスカイラインが駐車していた。  父はこの車も娘だと思って定期的に手入れをしてくれている。小鳥も手伝ったりして、父ちゃんからあれこれ教わったり、二人で油まみれになることもある。  お兄ちゃんから引き継いだMR2。これを初めて運転した時の嬉しさだって忘れない。  この二年、この車で沢山のお客さん仲間と走ってきた。嫌な思いなんてほとんどなかった。 「エンゼル……」  ライトを覆っていたカバーが割れて砕けている。そこに手を当て、小鳥は跪いた。
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