8.こんな時の、お父ちゃん

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「社長。ありがとうございました。俺、なにもできなくて。社長、とても手慣れていますね」  父が笑う。 「あったりめえだろ。小鳥、聖児、玲児。武智んとこの俊太郎と子守りしてきたからな。こんなことができるんだよ」 「それで仕事で動けないオカミさんが、社長に行くように言ってくれたんですね。本当にお騒がせして申し訳ありません」  いつもの礼儀正しいきちんとした翔兄らしく、上司である英児父に深々と頭を下げた。 「まあ、なんつーの。おまえもいきなりでびっくりしたんだろ。仕方ねえや」 「ですが。自宅まで来て頂くことになって、プライベートのことに巻き込んでお恥ずかしい限りです」  他人行儀に部下の一線を引こうとする翔を見て、父は少しばかり不服そうに口元を曲げている。 「翔、俺はな、従業員のプライベートは、きっぱり無関係なんて思ってねえよ。勿論、仕事で一線引かなくちゃいけねえところは絶対だけれどよ。俺のところみたいに個人経営だと、従業員の家族も家族みたいなもんだからさ。一人で困った時には社長の俺を頼って欲しいと思っている。それに……おまえと瞳子さんのこと、知らぬわけでもなかったし」  それでも翔兄は、迷惑をかけてしまったと俯いていた。小鳥も胸が痛む。カレシの上司が父親だから、自分の両親は頼らない方が良かったかなと勝手にやったことをいまになって反省してみたりする。 「瞳子さん。結婚して何年だ」  英児父の問いに、翔も気を取り直したのか、しっかりと顔をあげて父に答える。 「二年、いえ、三年になりましょうか」 「結婚して三年内に出産、母親。順調じゃねえか。瞳子さんらしいな」  どこか含んだような言い方で、父が苦笑いをみせた。
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