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「けど。結婚生活と子育てだけは、大人の思い通りにならねえわ。自分の思いだけで動くと破綻するんだよ」
途端に父の声色が険しくなった。それは徐々に批判めいている。
「相手がいるから家族が出来るんだろ。一人じゃ出来ねえんだぞ。相手と摺り合わせて夫妻になるもんだしな。自分の理想に合わせてもらうもんじゃねえよ」
そして父は翔を睨んだ。
「いいか、翔。きっぱり突き放すんだぞ。この子供のためにも、どうあっても一度は旦那のところに返せ。間違ってもかくまうんじゃねえぞ」
「当たり前じゃないですか! 未練なんかこれっぽっちもないことは社長だってご存じでしょう」
あの翔兄がムキになって言い返した。いつもは父の言うことを静かに聞いて頷いて、反論する時も理路整然と淡々と返して、その頭の回転の良さで勘だけで動く父を唸らせてきたのに。
それは小鳥の前だから? それとも彼女の父親の前だから? それとも……。
「だけど、俺。彼女はまったく変わっていないと思いました。見合い結婚でも望んだ結婚だったはずなのに『こんなはずじゃなかった』と言い並べた不満が、俺との最後の別れ話の時とそっくりで……。どんな男が相手でも同じだったんじゃないかと」
「そうか。てことは、瞳子さんも変わり時だな。これ乗り越えないと、彼女が痛い目に遭うだけだ。いつまでも姫様思考なら、毎日が苦しいだけだ。翔、前の女だからってここで甘やかすなよ」
「勿論です」
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