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「あの、恵太に……?」
「ああ。おっちゃんがな。悪いけど開けさせてもらったよ。この若い二人がどうこうできるもんじゃなかったみたいだからよ、呼び出されたんだわ。そんだけ、子育てのスキルてお母ちゃんお父ちゃんじゃないとダメなんだよ」
すると瞳子さんが項垂れた。
「夫は、なにもしてくれません」
そう返され、英児父の顔が曇る。
「子育ては協力してくれると約束してくれたのに……。仕事仕事、出張出張ばかりで」
さらに英児父の表情が強ばり、小鳥はハラハラしてきた。その顔、父ちゃんが怒っている顔。
「仕事仕事、出張出張。そういう男が瞳子さんが望んだ高給取りで、大手社員のエリートの働き方なんだよ。仕事をめいっぱいやらせておいて、帰ってきて子育てもしろはねーだろ」
「それでは、この子は父親のぬくもりを覚えてくれません」
「やり方があるだろ。朝出かける前に、ちょっと相手してもらうだけでも全然違うんだよ。それからな、まだ五ヶ月ぽっちの赤ん坊なんて、男親はまだ慣れないしどう接して良いかわからねえ男もいっぱいいるんだよ」
また瞳子さんが項垂れる。
「もう少し頑張ってみな。旦那も慣れてくるからよ、な」
父の諭しに、彼女も小さく頷いた。
でも顔を上げた瞬間、彼女のきつい目線が小鳥に向かってきた。でも一瞬。
「翔、迷惑かけたわね。もう二度と来ないから安心して」
「ああ、もう二度と来るな。迷惑だ」
きっぱりした翔の返しに、やはり彼女が哀しそうな顔をした。
「さあ。行きましょう」
琴子母が赤ちゃんを抱いた彼女を連れていく。玄関が閉まった音がして、小鳥ではなく男二人がホッとした息を落としていた。
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