9.二人きりになれません

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 ✿・✿・✿   翌朝、エンゼルは龍星轟のピットにいれられた。 「ひっでぇなあ! なんじゃこりゃ!」    ピットの天井まで、矢野じいの怒声が響いた。  清家おじさんと兵藤おじさんの、整備部長二人も表情を堅くしたまま黙り込んでいる。  そして、翔兄も。特に龍星轟の男達が集まって検証しているのは、前方のバンパー。白のランサーエボリューションと接触した箇所だった。 「普通はよう、自分も傷を負うような真似はしねえもんだろ。見ろ、青いエンゼルにしっかりランエボの白い塗装がこすれて筋を描いているじゃねえか。キチガイだぞ、マジで」  矢野じいの検証に、誰もがうなずいていた。  そして、英児父は男達が群がるそこから一歩下がって腕組み、昨夜の怒りのままエンゼルを睨んでいる。  そんな龍星轟主人の静かなる怒りに気がついた男達が振り返り、社長である英児父がなにを思ってるのか窺っている。  英児父がやっと口を開く。 「共倒れになっても、こっちを痛めつけたいという怨恨を感じるな」  龍星轟の男達がそれぞれ顔を見合わせ、皆が俯いた。つまり、大人の男達は、ここにいる車屋の男達は、英児父と同じことを感じている。  矢野じいも続ける。 「そうだな。これまでやられてきた客の車は、せいぜい幅寄せでこすったか、煽られてハンドル操作を誤って自滅衝突だったもんな」  そして清家おじさんも、兵藤おじさんも。 「なのに、エンゼルにだけ当たりに来た。確かに不自然だ」 「ハンドルを切った小鳥にわざと合わせるようにして、ぶつかってきたらしいしな」  白のランエボも、今頃修理をしているはず。二人の整備部長が『知り合いの整備士、整備店に問い合わせてみよう』と話し合う。
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