9.二人きりになれません

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 そんな大人達の話を聞けば聞くほど、小鳥は昨夜の恐怖も相まって震え上がる。  そんな恨みを買うような走り方をしていた覚えもないし、白のランサーエボリューションXなんて記憶にもない。  そんなことはもう父もわかっているのか、見覚えあるかどうか確認もしてこない。 「ともあれ。エンゼルを直すことからだ。翔、ライトの修復を頼むわ」 「はい。社長」  へこんだバンパーに激しく破損しているライトカバー。翔兄も昨夜の小鳥のように、エンゼルに跪き壊れたライトにそっと手を当て俯いていた。  元々はお兄ちゃんの愛車。手放したとはいえ、うんと悔しいだろうと小鳥も思う。引き継いだ小鳥よりずっと長く乗っていたのだから。 「にいちゃん達も、板金と塗装よろしく頼むわ。身内の車で悪いけどよ」  英児父は社長と呼ばれるようになっても、自分が引き抜いてきた『整備の先輩』である清家おじさんと兵藤おじさんのことは、いまでも『にいちゃん達』と呼ぶ。 「エンゼルは龍星轟を代表する車だろ」 「そうだよ。英ちゃん、気にすんな。任せてくれ」  小鳥からもお願いをする。 「おじちゃん達、お願いします。私がうまくやり過ごせなくて、こんなことになってしまって、ほんとごめんなさい」  お店の仕事を増やすことになってしまい、小鳥は深く頭を下げる。それでもおじちゃん二人は笑ってくれる。 「こんなぶつけられ方されたのに、怪我なしでよかったじゃないか。うまくかわせたし、追い返せたんだろ」 「そうだ。小鳥が無事でよかった。しかもインカーブでランエボを抜いてやったなんて、さすがだなあ」  本当は小鳥もムキになっていたんだろうと、おじさん二人が小鳥をからかう。
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