9.二人きりになれません

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「ムキになんてなっていないよ! ちゃんとおじちゃん達に教わったとおりに、やりすごそうとしたんだもん!」  ここでムキになって否定したので、整備達人のおじさん二人は『どうだか』と笑いだした。  でもそれで、ピットの中の空気が和らいだ気がした。 「じゃあ、やるか。翔、ライトよろしくな」  整備部長二人が動き始めたが、翔兄はまだ壊れたライトをしかめ面でなでているだけ。それでも、並々ならぬ空気をかんじた小鳥は、いつものように元気に近寄ることができずにいた。  そして、英児父は後部バンパーに跪いて唸っている。 「くっそ。本多君のお守りもこんなにしやがって」  後部バンパーに貼っていた龍と天使のステッカーもぐしゃぐしゃになっていた。  龍星轟のメインステッカー、そして小鳥だけしか貼っていないデザイナー特注の『龍星轟の娘』と意味するエンゼルステッカー。この二枚を貼っていることを『これさえあれば、無茶を仕掛ける男はいないはず。龍の親父に喧嘩を売るようなもの』といわれ『龍と天使の守護神ステッカー』とも言われていた。  なによりも。この天使ステッカーがこの青いMR2が『エンゼル』と呼ばれるようになったキッカケ。 「俺たちが車を傷つけられて怒りを感じるなら、本多君だって丹精込めて描いた作品をこんなにされたら怒るだろうさ」  英児父が側にいる小鳥を見上げた。 「ステッカー、もらってこい」 「うん。そうする……」  デザインをした作品をこんなにされて、こんなに……こんなに……。そこで小鳥はハッとした。  まずい。このステッカーをぐしゃぐしゃにした本人って、私じゃん!? 後部をぶつけたのは小鳥自身。
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