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10.痛いの、痛いの、とんでいけ
「もう。白のランエボをとっつかまえることだけしか教えてくれない」
午前の講義が終わり、いつもの学食で定食を食べて、花梨やスミレが来るのを待っている。
本当に誕生日以来、花梨に会っていない。メールを送っても『いま、忙しいんだ。またメールするね』とだけ返信があってそれっきり。小鳥は小鳥で誕生日を境に、カレシができるは、初めて事故るはで落ち着かない日々を駆け足で過ごしていた。
学部が違っても、毎日毎日、お昼になったら学食で会えたのに――。こんなことも初めてだった。
まさか。勝部先輩と、勝部先輩と、勝部先輩と……!?? あらぬ想像で一人のたうち回る。
「はー、久しぶりの講義、疲れたー」
目の前に、いつもどおりの彼女が、急に現れる。
「午後の講義、しんどいなあ。もう帰りたい~」
本当に毎日毎日見ている彼女だったので、逆に小鳥は箸にご飯を挟んだまま、しばし停止してしまう。
「ねえ。小鳥ちゃん。今日は琴子お母さんのゼットだったじゃん。どうしたの。気分?」
カフェ販売部のカウンターで買ってきただろうサンドウィッチを食べもせず、暫く放って鏡でお化粧や髪型をチェックするのもいつもの彼女だった。
でも。何かが違う。
小鳥は箸を置き、ひと呼吸間を入れてから、花梨に真顔で向き合った。
「どうしたの。花梨ちゃん。なにかあったの」
数日間、姿も見せずにどうしていたのか。
「……山口、行ってきたんだ」
驚き、小鳥は目を見開く。花梨はまだ鏡を見ていて、小鳥の目は見てくれない。
「静かで緑も綺麗、町並みも綺麗、所々古い家とか建築物があって趣があって。国宝の五重の塔があったりして、歴史的重要文化財の宝庫。室町時代に栄えただけあって遺跡もいっぱい。本当に古都ってかんじだった。小さいながらも、街の中心に市民で賑わうアーケード街があってね。そこにあったわよー。先輩の実家。和菓子屋さん。白い暖簾があって、ほーんと老舗って感じで」
そして花梨は、持っていた大きなトートバッグから小さな木箱を小鳥に差し出した。
「お土産です」
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