10.痛いの、痛いの、とんでいけ

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 桐のような木箱に白い熨斗のような紙が巻いてあり、そこに筆文字で『花鼓』と記されている。菓子名の側には季節の花なのか、椿が描かれていた。いかにも和風。 「まさか。これが……」 「そう。皇室御用達のお菓子。食べてみて、びっくりするから」  まだ食事中だけれど、とても気になって小鳥は丁寧に上品な包み紙を取り去り、そっと木箱の薄い蓋をとった。  きらきら光る白い粉をまとった黄金色の薄いお餅が隙間なく並べられている。高級感はあるが、とても質素。でも品格が漂っている。 「本当だ。いかにも皇室御用達和菓子ってかんじ」 「でしょ。食べてみて」  言われて備え付けてある木串を手に取ったのだが。 「手で食べてみて」  言われたとおりに、そっと手に取ると。 「す、すっごい柔らかいっ」  とろっと柔らかいけれど、垂れ落ちて伸びたりしない、しっかりと形成されている。  静かに頬張る。そして小鳥はびっくりして口元を覆った。 「とろける! 素朴な甘みなのに、この優しい甘み、なんか癒されるね」 「でしょ。如何にも職人技なしではできないお菓子ってかんじでしょ」 「歴史を感じる~」 「……でしょう」  花梨がそこでがっくり項垂れた。 「その一番小さな箱で、三千円です」  そう聞いて、小鳥もびっくり仰天、もらった箱を思わず手にとってしげしげの眺めてしまう。 「ここらの伊予柑的お土産でも、この大きさなら千円もしないよ!?」 「だから。歴史ある手間暇かけて作られている、なおかつ、引き継がれている伝統のお菓子ってこと。これを先輩は背負ってるんだなあって……。うん、行ってきてよかった」 「一人で行ってきたの」 「うん。まあね」
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