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 おばあちゃん三姉妹はそれぞれ一人ずつ娘がいる。従姉妹三人は姉妹みたいに仲がいい。定例の温泉旅行は年中行事だった。  今年もそろそろだなと思っていたある日、 「今年は旅行断る」  夕食後、おばあちゃんが部屋に行ったあと、お母さんがそんな発表をした。 「なんで?」  お兄ちゃんは呑気そうに言った。 「年に一回の楽しみやろ?」  お父さんも。  私はこの二人の食事の準備をしなくていいから助かるけどね。 「お母さんが・・」  お母さんはそう言うと、ダイニングテーブルに組んだ手の内側に頭を垂れてしまった。 「お母さんって、おばあちゃんのこと?」  そう言えば一週間前におばあちゃんは、大きな病院に検査に行った。 「この間の検査結果よくなかったの?」  お母さんがおばあちゃんのことを「お母さん」って呼ぶのは久しぶりだと気づいた。  私の質問に、腕のなかに頭を入れたままでひとつ息を吐く。そしてゆるゆると頷いた。 「胃ガンだって。ステージ4」  お母さんはそのまま机に突っ伏してしまった。私はダイニングテーブルに手をついたまま動けなかったし、お兄ちゃんは寝転んでいたソファーから体を起こしている。お父さんは黙って新聞を置いた。
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