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 麻美おばちゃんのお母さん、アキおばあちゃんが検査を受けたのは、おばあちゃんと同じ週だった。  アキおばあちゃんも胃癌。やっぱり手術は難しいと言われたらしい。  麻美おばちゃんは一人暮らしだ。息子がいるけれど仕事で海外赴任している。ご主人とは若い頃に離婚していた。  麻美おばちゃんは、アキおばあちゃんと同じ市内に住んでいるけれど、同居はしていない。  お母さんは私たち家族に気持ちを吐き出すことができたけれど、麻美おばちゃんにはそんな相手がいなかった。だからお母さんに聞いてほしいと思ったのかもしれない。 「お母さんに言うた方がいいんやろか?」  麻美おばちゃんはようやく泣き止んでから、お母さんとおばあちゃんの顔を交互に見ていた。縋るような視線をお母さんに向けている。でも私にはお母さんの頬がピクピクしているのがわかった。  そのとき、おばあちゃんが口を開いた。 「言わんといたり。手術もでけへんのやったら言わんといたり。アキちゃんがっかりしてしまうかもしれへん。それは病気にはええことない」  おばあちゃんは、もう一度、麻美おばちゃんの背中を摩る。 「あんたがしんどいのは重々承知や。私らどうせ老い先短いんやから、怖い思いせんとぽっくり死ねたら一番や。それまで楽しい生きさせたって。堪忍やで」 「おおちゃん、わかった」  おばあちゃんの顔を見ながら頷いている麻美おばちゃんの前で、お母さんも頷いていた。頷きながら家族会議の決定が間違えていなかったことに安堵していたのだろう。  麻美おばちゃんが帰ったあと、おばあちゃんはソファに座ったまま、 「アキちゃん、かわいそうに。なんもこの歳なってそんな病気ならんでも、ぽっくり連れて行ってくれはったらええのに。どうぞ怖い思いせん間に、楽に逝かせてやってください」  そう言いながらずっと手を合わせて祈っていた。  それはおばあちゃんの望みでもあるように聞こえた。
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