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ハルおばあちゃんが突然うちに来たのは、それから数日後のことだった。家には私とおばあちゃんだけだった。
私が出したお茶を飲むなり、ハルおばあちゃんが言った。
「おおちゃん、アキちゃんガンやって知ってたか?」
私は危うくお持たせの羊羹を落とすところだった。
事態をややこしくしてしまったのは、麻美おばちゃんだ。相談する人が周りにいないことが不安だったのだろう。アキおばあちゃんの状態や通院で言われたことを従姉妹'sのグループlimeに流したつもりが、ハルおばあちゃんも入って四人で作っていたグループに、間違えて書き込んでしまった。
それでハルおばあちゃんは、アキおばあちゃんが癌であることを知ってしまったというわけだ。
「かわいそうになあ。この歳なって辛い思いせんとってほしいなあ」
既に知っていたはずのおばあちゃんは、まるで初めて聞いたようにそう言った。
「そうやろ、かわいそうに。癌は痛いらしいから、痛くなる前に老衰でぽっくり逝くんがええわ」
ちょっと酷い言い方だと思っていたとき、おばあちゃんが湯呑みを置いて言った。
「そうやね、それが一番や。もうしんどいのはいらんなあ」
「そやろ、アキちゃんが辛い治療で苦しくなる前に、三人でぽっくり逝けるように拝んどくわ」
そう言っているハルおばあちゃんも、おばあちゃんも一緒やねんよとはもちろん言えない。
そんな私の心中も知らず、二人は
「アキちゃんかわいそうに」
とさめざめと泣きだした。
私はいたたまれない気持ちで二人を見守るしかなかった。
ひと泣きしたあとハルおばあちゃんは、ある計画を話しだした。
「久しぶりに三人揃おう、アキちゃんが辛くなる前に。アキちゃんとことうちの、ちょうど真ん中がここやろ? そやからここで集まろ。私らが車でここまで連れてきてもらうわ!」
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