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だからエックスザウルスはこの世の救世主だと思われた。PTAからは、将来の学級崩壊を救ったとして表彰された。国からは将来の食糧不足を救ったとして表彰された。また国連は将来の地球温暖化を救った功績でエックスザウルスを表彰した。あのまま全ての赤ちゃんが成長していれば、彼らの吐き出す二酸化炭素で、地球の平均気温が20度以上上昇することは明らかだったから。
大人たちはエックスザウルスを神のごとく崇めはじめた。エックスザウルスのために神殿を作り、捧げ物をした。
神殿は神道の神社形式のほかに、法隆寺の大仏殿風、チベット仏教スタイル、ビザンツ教会風、イスラム風モスク、70年代ヒッピー風、初音ミク風など、およそ地球上のありとあらゆる宗教の様式で作られた。
そしてそれぞれの宗教の代表者がエックスザウルスのもとに集まって、交代で世話をすることに決まった。エックスザウルスが同じ場所から動かなくてもいいように、生贄を捧げることにしたんだ。生贄というのはもちろん赤ちゃんのことだよ。ここに世界の宗教が始まって以来、はじめて宗教間の対立を解消することができたんだ。
エックスザウルスはじっとしているだけで、もう選り取りみどりで赤ちゃんを食べることができるようになった。日本人の赤ちゃんもいれば、韓国人の赤ちゃんもいた。中国人の赤ちゃんもいれば、ベトナム人の赤ちゃんもいた。
中でもエックスザウルスが好きだったのは、マサイの赤ちゃんだ。マサイの赤ちゃんは口に入れた瞬間、野生の味が口いっぱいに広がって、アフリカの強い太陽で焼かれた肌はえもいわれぬ香ばしい風味を足してくれる。おまけに彼らは生まれたときから運動能力に長けているものだから、飲み込むときに口の中で踊るんだ。
その感触が面白くて、エックスザウルスはマサイの赤ちゃんを好んで食べるようになった。エックスザウルスももはやいっぱしのグルメだからね。タイ人の親がやってきて、赤ちゃんを捧げようとしても、マサイじゃないとわかるとソッポを向いてしまうありさまだった。
タイ人はがっかりさ。でも彼らは一筋縄ではいかない人たちだ。タイ人の赤ちゃんは好まれないとわかると、マサイの人たちを養子に迎えて、タイ人との混血を進める国家プロジェクトを開始した。
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