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あれは私がいつものように教壇に立って、生徒たちに教科書の練習問題を解かせていたときだった。問題は出来の悪い私の受け持ちの子たちには、少々荷が勝ちすぎる気がした。
するとこういう場合の常にもれず、生徒たちはどうでもいい話題を出して授業を妨害してきた。
まったくこいつらときたら、分数の計算もロクにできないくせして、先生の邪魔をすることにかけては詐欺師のように知恵がまわるのだ。
生徒A「ねえ先生。先生は子どものことが嫌いでしょ」
先生「なんだってそんなことを聞くんだい?」
生徒A「だって先生は、お仕事、お仕事って感じだもん」
先生「悪いことじゃないだろう。ちゃんと勉強は教えているんだし」
生徒B「でも、子どもはそういうとこ敏感に感じるよ」
先生「先生はあまり子どもを好きにならないようにしているのさ。君たちのためだ」
生徒C「どうして?」
先生「そういう時代に育ったからだよ」
生徒C「それって先生が子どもの頃のこと?」
先生「そうだよ」
生徒A「ねえ先生、その頃の話してよ」
先生「問題を解いてからね」
生徒B「こんなの僕たちもうみんな解いちゃったよ」
先生「解けただけでは駄目だ。正解していないと」
生徒C「全問正解だったよ」
先生「どれ、見せてごらん。フム、当たっているな。少し難しいかと思ったが」
生徒C「簡単だよ。だって僕たち先生に教えてもらっているんだよ」
先生「それもそうだな」
生徒A「ねえ、先生が子どもの頃の話して」
先生「怖い話になるよ」
生徒A「平気だよ。先生は子どものこと良く知らないだろうけど、子どもは怖い話が大好きなんだ」
そういったわけで、渋々ではあったが、私はとっておきの話をすることにした。優れた教師というのは、生徒たちの集中力が切れたときのために、愚にもつかない話をいくつか用意しているものなのだ。
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