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「なんにしても、ポーカーフェイスを恰好いいと思っていることと、大人になれないことがイコールだっていうのはよくわからないですね」
「その二つがイコールで繋がっているというよりかは、ある種の思い込みはとても子供っぽいなっていう話だよ」
余計わからなくなった。そのことを伝えるように首を傾げる。
「要は感情や思いを顔に出すと自分の立場が脅かされると考えているからそれを隠そうとするんだろう。そうしなければ自分がより危険に晒されると思っている。それは無力な人の考え方だと思う。自分のことを信じることができていない人の考え方だ」
それはなんだか僕に対して確認しているような言い方に感じた。きっと勘違いではないと思う。
「自分の意思を隠したとしても、それで対処できるのはそのワンシーンだけだ。長い目で見ればそれは損でしかない。道端で拾った綺麗な石が捨てられることを恐れてずっと宝箱に隠しているようなものだよ」
確かに何かを隠すのは自分にとって不都合な場面を想定して、それを回避するためだろう。
「でも、そのワンシーンがとても重要な場合もあります」
その瞬間を切り抜けなければどうしようもなく自分が不利になる場面。自分が自分であるための、自分に対しての偽り。
「それは特別な瞬間かい?」
「いえ、きっとありきたりな日常です」
「うん。それじゃ、だめだ」
その通りだと思う。自分を偽ることが日常になるのは、よくないことだ。
「でも、そうでもしないと守れないものもあります」
例えば、いつも通りの毎日だとか張り詰めた糸のような危うい関係だとか誰にも気づかれない場所にある浅い傷だとか。
「そんなに大切なものなら、戦ってなんとしてでも守り切れよ。言葉と表情筋と掌を使えば大抵のものは守れる」
「使い方を間違わなければそうかもしれないですね」
「難しいことじゃないよ。感情の赴くままに動かせばいいだけだ」
それが一番難しいことなんだけどな、と思ったが言わなかった。
「でも、綺麗な石を捨てられたくないのなら、宝箱に隠してしまうのが一番確実な方法だと思います」
「そうでもないよ。隠していたって暴かれるかもしれないし、宝箱そのものを捨てられるかもしれない」
「そんなことを言ったら何も守れないことになりますよ」
「隠そうとするから守れないんだよ。本当に守りたいなら隠さずに飾ってしまえばいいんだ」
「道端で拾った石を飾っていたら、それこそ捨てられてしまいますよ」
「そうならないように守るんだよ。捨てられそうになったら無害の証明をすればいいし、むしろ捨てられそうになる前に説明して納得させてしまえばいい。それが守るということだよ」
隠すだけでは逃避と変わらない。そう言う彼女の表情を見ると、口元は笑っていたが、目は少し悲しげだった。
寂しそうに微笑む彼女はとても弱々しくて、いまにも泣いてしまいそうに見えた。
でも、この人はこんな場面では泣いたりしない。このワンシーンには涙はあまりふさわしくないから。
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