嘘吐きのドア

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 ***  一体、何がどうなっているというのだろう。  れいなちゃんは俺の嫁――そのコテハンでスレを立てた俺は、書き込むこともできずにただ茫然と流れを見つめているしかない。スレッドは加速度的に埋まっていく。カウンターも止まらない。一体何人が今、このオカルトな掲示板を見ているというのだろう。 ――なんだよ、これ。ちょっと待てよ。  そもそも。俺がこのスレを立てたのは、ちょっとした悪戯心だった。なんといっても今日はエイプリルフールである。一個くらい面白い嘘をついてやろうと思って、釣りスレッドを立てたのが全ての始まりだ。  自分の会社が、●●橋の近くにあるというのは本当。そのすぐ近くに竹林がるというのも本当。だが、竹林の中に茶色のドアが見えたというのは真っ赤なウソである。ただ単に、異世界に通じるドアでもあったら面白いなと思っただけ。みんなでわいわい考察して盛り上がったところで“嘘でした!”とぶっちゃけるつもり満々だったのだ。  だから、実際に竹林を見に行くという“突撃班”が現れた時、終わったなと思ったのである。即座に嘘がバレてこのお遊びもおしまいになるとばかり思ったのだ。  ところが、彼もまた“ドアがある”と宣言。その彼を助けに行った“救出班”なる男もドアを確認している。そしてさらにその男の様子を面白がって見ていた“傍観者”は、“救出班”という男がドアに吸い込まれるのを見てしまい、現在進行形でパニックになっているというではないか。  だが、最初に突撃してきた“突撃班”がアップした写真は、質のの悪い合成写真だったとスレ住人の一人が告げた。ということは、つまり? ――最初の、俺の書き込みが嘘だったのは確かだ。でも……そこから先はどうなんだ?一体どこから、誰からが嘘で本当だったんだ?  自分が嘘吐きだったせいで、他の誰かの証言も信用できない。全員が全員嘘吐きだった、なんてことはあるのだろうか。こうしている間にも、次々と“近所に住んでいるから竹林を見に行く”という猛者が現れ続けている。スレ住人が証言した通り、普通ならこんなにもたくさん“近所の人間”が、偶然一つのスレに居合わせることなどあり得ないというのに。 ――誰か教えてくれ。ドアはあったのか、なかったのか!?一体誰が……嘘吐きなんだ!?  後日。  その竹林で、複数の人間が行方不明になったとニュースが流れることとなる。  だがスレッドで騒がれた“茶色のドア”の存在は――未だ、警察では確認されていないという。
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