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切望のアルマ
「皆さん、落ち着いて!落ち着いて地下シェルターに避難してください!」
先生が声を張り上げる。サイレンが鳴り響く教室、不安そうに学校の地下シェルターへの階段を降りていく子供達。もはや、ハナミにとっても見慣れた光景だった。
この惑星に、異星人が襲来して攻撃を仕掛けてきたのが十年ほど前のこと。
最初は小さな小競り合いだったのが次第に規模を大きくし、最近ではこの学校がある都市にも炎の雨を降らせるようになってきた。異星人は怖い。アニメやマンガで見たような、恐ろしい魔法を使ってくる。炎の雨を降らせる魔法や、毒の雨を降らせる魔法が特に恐ろしいと聞いていた。今のところこの小学校の建物はボロボロになりながらも持ちこたえているが、それもいつまでもつかわかったものではない。
ひょっとしたら、地下に降りたまま自分達は外に出られなくなってしまうのではないか。
真っ暗で、蒸し暑くて、ぎゅうづめの地下室でみんなで死ぬことになるのではないか。
一瞬でもそういう思考に囚われてしまったらもうだめだった。パニックになったまま固まっているハナミを突き飛ばした別のクラスメートの女の子が、ものすごい形相でハナミを睨んでくる。
「グズ。ほんっとに邪魔」
自分だって逃げたい。それなのに動けないのを、何故こうもういつもいつも罵倒されなければいけないのか。自分がクラスでも嫌われ者であるということを、こういう極限状態ではより一層思い知ることになるのである。なんせ、地下シェルターに避難する時も、みんなが自分から離れたところに行きたがるのだ。ハナミ菌がうつるから嫌だ、とか言って。
そして、たまたま近くになった子がものすごい嫌な顔をする、というところまでがテンプレートである。
人よりちょっとブスなだけで、何故そこまで嫌われないといけないのだろう。人よりちょっと動きが鈍いだけで、パニックになりやすいだけで、何故いつもいつもこうも冷たい扱いを受けなければいけないのか。
そんなハナミを、気にかけてくれる子はただ一人。
「ハナミ、こっちだ!」
「ルリヤくん」
クラスメートの、ルリヤ。幼稚園の頃からの友達である彼だけが、いつもハナミの味方をしてくれる。いじめられていても助けてくれるし、ハナミのせいで彼まで冷たくされても怒ったりしない。ハナミと違って運動も勉強もできて、とても綺麗な顔をしているのに。
彼に腕を引っ張られ、シェルターへ向かう。いつも迷惑ばかりかけてごめんなさい、と思うと同時に心底安心してしまうのだ。
「ほんと、いつものことなのに鼻水垂らして泣いてきもいよね」
「あいつのせいでいっつもうちのクラス、避難が遅れるんだけど」
「遠くへ行ってくれないかな、気持ち悪い」
「むしろ、あいつだけ外に放り出せばいいのに。死んでくれたら清々するじゃん」
「ルリヤもわけわかんないよな。なんであんな奴のことなんか気にするんだ」
「……ハナミ、気にしなくていいから」
有象無象の、まるで石礫を投げるような言葉も。彼の一言で、全部吹き飛んでしまう。
「お前には、俺がついてるから。俺はいつだって、お前の味方だからな」
ああ、どれほど恐ろしく、醜い世界であっても関係ない。
彼だけがいてくれれば、それで自分の世界は十分に満たされるのだから。
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