ひなたの歌

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俺の心はずっと日陰だ。眩しいぐらいの陽の光が注いでもきっと届かない。薄暗くって、冷ややかで。 彼女が居なくなってからだ。 そして、歌を歌わなくなってからだ。 ◇◇ 「何?これ?」 ベッドに横たわる母さんが古臭い四角いものをくれた。それはだいぶ古く、薄埃が被っている。 「カセットテープよ」 「カセットテープ?」 「その棚の二段目にこのテープが聞けるプレイヤーが入ってるわ。開けてみて」 俺は言われた通りに引き出しを開ける。そこには母さんが昔使っていたカセットテーププレイヤーが入っていた。これもまた古くて薄汚れている。使っているのは見た事があるが、まだ小さかったので何なのか覚えていない。 「このボタンを押すとここが開いてね、テープが入って音楽が聴けるのよ」 パカッと開けると、確かにこのテープが入る隙間がある。今はスマートなスマホで音楽がたくさん聴けてしまう世の中だ。だから、このゴツくて四角いものが不思議に思えた。でもきっと、これがあったからここまで進化したんだろう。 「このテープには亡くなったお父さんの歌が入っているのよ」 「え?父さんの?」 「ずっと言わなくてごめんね。父さんもあなたと同じで歌を歌っていたのよ」 「え?知らなかった……」 テープを握りしめ、それを眺めた。 父さんも音楽を?全然知らなかった。 父さんは俺が三歳の時に、突然事故で亡くなった。
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