0人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
俺の心はずっと日陰だ。眩しいぐらいの陽の光が注いでもきっと届かない。薄暗くって、冷ややかで。
彼女が居なくなってからだ。
そして、歌を歌わなくなってからだ。
◇◇
「何?これ?」
ベッドに横たわる母さんが古臭い四角いものをくれた。それはだいぶ古く、薄埃が被っている。
「カセットテープよ」
「カセットテープ?」
「その棚の二段目にこのテープが聞けるプレイヤーが入ってるわ。開けてみて」
俺は言われた通りに引き出しを開ける。そこには母さんが昔使っていたカセットテーププレイヤーが入っていた。これもまた古くて薄汚れている。使っているのは見た事があるが、まだ小さかったので何なのか覚えていない。
「このボタンを押すとここが開いてね、テープが入って音楽が聴けるのよ」
パカッと開けると、確かにこのテープが入る隙間がある。今はスマートなスマホで音楽がたくさん聴けてしまう世の中だ。だから、このゴツくて四角いものが不思議に思えた。でもきっと、これがあったからここまで進化したんだろう。
「このテープには亡くなったお父さんの歌が入っているのよ」
「え?父さんの?」
「ずっと言わなくてごめんね。父さんもあなたと同じで歌を歌っていたのよ」
「え?知らなかった……」
テープを握りしめ、それを眺めた。
父さんも音楽を?全然知らなかった。
父さんは俺が三歳の時に、突然事故で亡くなった。
最初のコメントを投稿しよう!