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 それは正月気分も抜けた街に、ちらちらと小さな雪が風に舞う日の事だった。私はいつものように渋谷のスクランブル交差点を眺めていた。  若さだけがステータス(社会的地位)の学生達。友情(したごころ)で繋がっている男女グループ。歩数(しごと)よりも溜息が多い中年サラリーマン。暇な時間と気の抜けた体を(ランチ)で満たす主婦(マダム)達。  そこは魑魅魍魎が(うごめ)き、交わっては散ってゆく常世(とこよ)の縮図だった。  さて帰ろうかと思った時に、一人の男に目が留まった。信号待ちのようでもなく、待ち合わせのようでもない。立つ場所の選び方が私と似ていた。交差点に流れ込む人波に飲まれず、水しぶきの如き雑音が届く距離。男は追い詰められたような表情でボディーバッグを胸に抱き、ただ雑踏を眺めていた。  ダディの莫大な遺産を相続し特にやる事のなかった私は、その日から好奇心に任せて男の観察を始めた。
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