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――馬鹿!
私は突然の事に出かかった言葉を飲み込むと彼の背中にぶつかって行った。咄嗟のことで狙いがズレてしまったかもしれない。包丁を抜いた後の手に感じる血の温もりが思ったより少ない。動きを止めずに包丁をしまい、そのまま彼の横をすり抜け前方で膝をつき苦悶の表情を浮かべる男性に駆け寄った。彼の返り血を男性の血で汚し救護のフリをしながら振り返る。倒れた彼の周りに数人が駆けより覗き込んでいた。少し離れた場所では携帯電話をかざしている奴らもいたが、暴れる男が引き起こす怒号や悲鳴に交差点内はパニックになった。
商店街の入り口付近で、通報を受けた制服警官達が刺又で男と捕物を展開していた。
到着した救急隊に付き添われてた私は、手に付いた血を拭いてもらうとその場を離れた。ワンピースに付いた返り血は薔薇色に紛れて違和感がなかった。
距離をおいて担架で運ばれる彼を見守った。意識は無いようだけれど、受け入れ先の病院まで行って見届けてあげようと思った。私が慌てず落ち着いて対応できていれば応急処置も受けずに済んだのに……
――ごめんなさい。私がちゃんと助けてあげるから。
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