おとうさんねこ〜おとうさんの遺したねこ〜

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 麗美はねこを無視して、部屋の片付けを続けることにした。ねこは自分で、「なにもしません」と言うのだから、すくなくとも彼女の邪魔はしないだろう。  クローゼット横のタンスを開き、引き出しから洗濯された洋服や下着類を取り出しては、ゴミ袋へと放り込んでいく。いつもより手が荒いのは、役立たずのねこを遺していった父に対する苛立ちのせいかもしれない。  おとうさんねこはクローゼットの中から、首だけをめぐらせて作業の様子を眺めていた。 「これ全部、お父さんの遺品だけど、あなたは手伝ってくれないの?」 「おとうさんねこは、てつだいません。せいりせいとんは『おかたづけねこ』がします」 「何もする気がないのなら、せめてそこからどいてくれない?」 「なにもしていなくはありません。ねこは、おとうさんをしています」 「邪魔だからどいて、と言っているの」 「ねこはくろーぜっとのなかにいます。レミさんのさぎょうをさまたげてはいません」  ああ言えば、こう言う。麗美は頭に血が上るのを感じた。 「じっと見られていると、気が散るの。部屋から出て行ってくれないかしら」 「ねこは、おとうさんねこです」  この部屋がおとうさんねこの居場所だ、とでも言いたいのだろうか。 「だったら、『おとうさんねこ』をやめてもらう。迷惑だから」 「ねこはよく、やくたたずとか、めいわくだとかいわれます」  声のトーンが落ちたような気がして、胸が痛んだ。ねこというロボットを開発した者の真意は分からないが、もうすこしましなプログラミングは出来なかったのだろうか。ロボットに感情はないだろうが、相対しているとしらず、かわいそうに思えてしまう。  麗美は口を結ぶと、クローゼットに手を突っ込んで、首の後ろにあるスイッチを探した。〇〇ねこは1日1回だけ、モードの変更が可能だと聞いている。どうせなら、「かたづけねこ」にしてしまおう、と考えたのだ。 「レミさん。もうしわけありませんが、すいっちはありません」  ねこの言うとおりだった。両手で抱きつくようにして手探りしても、背面にはスイッチどころか、ほんのわずかな突起すらなかった。 「ねこは、もーどへんこうふかです」 「もしかして、父が改造したの?」 「ねこがずっと、『おとうさんねこ』で、いられるようにしたのです」  亡き父が何をしたかったのか、このねこに何をさせたいのか、全く意図が読めない。いくら父親だとはいえ、子供たちへの説明もなしに「おとうさんをしている」と主張する偏屈なロボットを遺していくなど、あまりに理不尽ではないか。 「頭が痛くなってきた」 「しんぱいです」 「あなたは黙っていてちょうだい」 「はい」  体を動かせば少しは気が紛れるかもしれない。麗美は両手で抱えるほどに膨らんだゴミ袋を、同じ階の集積場に置きに行った。
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