キミとの約束

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「充と星が見たいな。ねぇ、一緒に行こうよ」 そう言ったのは俺の同棲中の恋人、(なごむ)だった。 和は頑固で一度言い出したらきかなくて何事にも一生懸命で、そして我儘だ。 いつも俺は和の我儘に振り回されていた。 俺ばっかりって思う事もあるけれど、俺は和の事が好きだし和以外を好きになるなんて事は考えられない。だから和の事なら何でも許せた。 ***** 月曜日 『今日も和の帰りが遅い。 バイトを掛け持ちしているようだ。 一体どんな理由でそんなにお金がいるんだ? いくら聞いても笑ってごまかされる。 どうして内緒にするんだろうか? 和が身体を壊してしまわないか心配だ。』 火曜日 『今日も和の帰りが遅い。 心なしか顔色が良くないように見える。 何でお金が必要なのか分からないがあまり無理はして欲しくない。俺だってバイトしているんだし、増やす事だってできる。だからそんなに一人で頑張らないで欲しい。 ねぇ何を隠してる?』 水曜日 『今日は久しぶりに和が早い時間から家にいた。 バイトは休みだそうだ。よかった。 俺ははりきって和の大好きなオムライスを作った。 玉子の上にはケチャップでハートマークを描く。 和は何も言わなかったけど、それを見て口角が上がっていた。 良かった喜んでもらえた。 久しぶりに二人で過ごす穏やかな時間だった』 木曜日 『今日も和は一日中家にいた。どこかぼんやりとしていて顔色も悪い。 その事を指摘すると冗談を言ってごまかす和。 ねぇどうして何も言ってくれない?』 金曜日 『      』 土曜日 『今日はかねてより和と約束していた山登りの日だ。 山頂でキャンプして星を見る予定だ。 山登りは和の趣味で、俺は山になんか興味もない。 だけど和が 「僕、充と星が見たいな。山のてっぺんで見る星ってきっとすごいよ。こうどーんって感じ?ねぇ、一緒に行こうよ」 そう言って笑った。 最近ずっと和の顔色が悪く無理をし過ぎだと感じていたので山登りなんて心配だけど、この山はたいして高い山でもないからゆっくりと登ればさほど負担にはならないだろう。荷物だって俺が持てばいい。 和と二人星を見る。 想像しただけでもうワクワクする。 和と一緒ならなんだって楽しい。 そういう場所なら隠してる事を話してくれるだろうか?』 悪路をぜぃぜぃ言いながら俺は山を登る。 思ってたより辛く、途中で何度もくじけそうになりながら、それでも山を登る。 「もうへこたれたの?(みつる)は見かけによらず体力ないね」 俺はムッとして、全然平気だし!と背負ったリュックをよいしょと背負い直し、再び歩き始める。 なんとか真っ暗になる前に頂上に着く事ができた。 少しだけ休憩して、なんとかテントを組み立て火をおこしお湯を沸かす。 コーヒーを淹れるとコーヒーのほろ苦い香りがふわりと鼻腔をくすぐる。 ふーふーと息を吹きかけ少しだけ熱を冷ます。 こくこくと飲みほしほぅっと息を吐く。 辺りも暗くなり、そろそろ星が見える時間だ。 「ほら、寝転がって空を見てみて?星がどーんって落ちてくるみたいだよ?」 俺はその場に寝っ転がり夜空を見上げた。 「ね?言った通りでしょう?」 涙がぶわりと溢れ出して、ぐちゃぐちゃで星なんて見えやしない。 ぼやける視界で一生懸命目を見開くが結果は同じだ。 バカ…っ!よく見えねーよ……っ! 「何で…っ何で隣りにいねーんだよっ!」 空に向かって叫ぶ。 星を見たいって言ったのはお前だろう? 俺と星を見たいって!お前が言ったんだ…! なのにお前はここにいない。 「――充、僕は星になって充の事見てるからさ、だからお願い。あの山を登って一番近くまで僕に会いに来て?そしたら僕は充の事抱きしめるから――――」 呼吸器に繋がれ声を出すのも苦しくて辛いくせに、そんな事を言う真っ青な顔をした恋人。 バイトを増やした理由が残される俺の為だったなんて―――。 お前はバカだよ。そんな事よりお前ともっとずっと一緒にいたかった…。 お前とした最後の約束を守って今俺はここにいる。 だから早く抱きしめてよ。お前も約束守ってよ。 「―――和…っ」 本当は俺だって分かっている。 あの時お前は俺がお前の後を追ってしまわないようにああ言ったんだろう? お前以外を好きになれない俺をお前に縛り付けて、そうやって生きていけって。 生きる意味を遺してくれた。 ――――なんて優しくて残酷な約束。 流れ続けた涙も枯れ、改めて夜空を見上げると沢山の星が瞬いていた。 落っこちてきそうな星たち。 ―――あぁ…和。 星の瞬きにお前の様々な姿が浮かぶ。怒った顔。泣いた顔。笑った顔。 確かにお前はそこにいた。 俺たち二人の距離は遠く簡単に触れ合う事はできなくなってしまったけれど、俺とお前は繋がっている。 俺は自分の身体を抱いて久しぶりにお前と夜を共に過ごした。 そうして日曜の朝が来て、俺は山を一人で降りた。 ***** 日中はお前のように何事にも一生懸命に取り組んだ。 あれから俺は無事大学も卒業しそこそこいい会社にも就職できた。 辛い事もあったけど、お前と一緒だったから頑張れたよ。 夜空を見上げお前を想う。週末にはまたお前に会いに行くよ。 沢山話をしよう。 頑固で一度言い出したらきかなくて何事にも一生懸命で、そして我儘な俺の恋人。 お前の我儘にもう少しだけ付き合ってやるよ。お前ももう少しだけ待っていてくれ。そんなに長くは待たせないと思うから。 だから、だからさ……俺がそっちに行った時、俺の事沢山褒めろよな。 よく頑張ったなって抱きしめて頭を撫でて欲しい。 俺もお前の為にお前の大好きなオムライスを作るから。 今度はケチャップで星を描くから。 そうしてお前の口角が上がるのを見るんだ。 -終-
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