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携帯電話
「なぁ父よ…締め切りを無事切り抜けて気持ちよく寝ているところ悪いが、ちょっといいか?」
「…んあっ、なんだ?どうかしたのか…?」
「いや…アタシの携帯が無いんだが…知らない?」
「そんなもん知らねぇよ…部屋とかじゃねぇのか?」
「いや、アタシも最初はそう思って探したんだけどさ…どうやら部屋には無いらしい。」
「無いらしい…って、ちゃんと探したのかよ、それ」
「探したよ。けれど考えてみれば、アタシはさっきトイレに行く前まで、そこのソファに座りながら携帯を使っていたんだ。それならこっちの部屋にある方が普通だと思わないか?」
「まぁ…たしかにそのとおりだな…。」
「…なぁ父よ、まさかその巨体の下敷きになっていたりはしていないだろうか…?」
「いや、それはないだろ。だってお前の携帯、あのトゲトゲしたヤツが付いているカバーだろ?」
「あぁ、そうだが…」
「だったら踏んだりしたら痛いから直ぐに気付くし、そもそも父さんはそんな凡ミスをしない!!」
「なんなんだその根拠のない自信は…それならもし下敷きになっていたら、今日から一週間、献立はピーマン料理になるけど、それでもいい?」
「…いいだろう!」
「意外と強情なんだよな…まぁいいや、とりあえず掛けてみてくれないか?」
「賭けるって…何を?」
「スゴい誤字だな。さすが小説家。」
「ありがとう」
「いや、まてまて。ありがとうじゃなくて、ちゃんとしてくれ父よ。」
「わぁかっているよ。お前の携帯に、電話を掛ければいいんだろ?ちょっとしたライタージョークじゃないか~」
「そのジョークは多分他の人は愚か、この状況を聴いている人には伝わらないだろうから封印した方がいいぞ。」
「そんなことないだろ~っんで、おまえたしか携帯新しくしてから、父さんに番号教えてなかったよな?」
「あーそういえば、なんかいろいろ忙しくて忘れてた」
「お前の番号、何番?」
「は?」
「いや、だから携帯の電話番号は?」
「えっ…ちょっと待て父よ、まさかLINEをしていないのか?」
「ライン?…あー、あの熊とかウサギとかヒヨコとかのやつだろ?父さんあれ使えないんだよ~」
「たしかにLINEのキャラクターはそういうヤツだが、そういう覚え方をしている人はおそらく父だけだぞ。普通の人は無料でメッセージのやり取りや電話が出来る、超便利でメジャーなアプリだと認識しているからな…ってか使えないってどういうことだ?」
「だって父さんの携帯、スマホじゃないから…」
「…」
「…」
「あの…父よ…」
「なんだ娘よ…」
「いい加減スマホ買えよーー!!印税でそれなりに稼いでんだろ~~!!娘を大学まで行かせられるほど稼いでんだろ~~!!だったらあんなリビングに置いてあるわけのわからんファンシーグッズ集める前に、スマホ買おうよ~~~~」
「おまえそれ、それ自分で言ってて一体どんな気持ちなんだよ、気が知れねぇよ。ってか、リビングに置いてあるの戦国時代の甲冑や掛け軸をそういう風に言うなよ。結構高いんだぞ、あれ。」
「それは知ってるけどさ…あーでもなんでよりによってLINEやってないかな~」
「別にやってなくても困らないし…それより早く、お前の番号は?」
「知らないよそんなの!!!」
「なんで逆ギレしてんだよ!」
「だって、普段から携帯の電話番号なんて使わないし、そんなの普通覚えてないでしょ!!」
「へぇ~今時の若い奴らは自分の携帯番号覚えてねぇんだ~」
「今どきの五十代のオヤジは普通LINE使えるけどな!!」
「めっちゃ言うな、お前。だいたいな…ん?」
「ん?どうした父よ?」
「いや…なんか腰の辺りが振動したような…」
「えっ!?」
「えっ??」
「…父よ、とりあえずちょっと立とうか」
「えっ…いやでも、気のせいかも…」
「起立!!!」
「あっ、はい。」
「…」
「…」
「…」
「…」
「とりあえず…今日の夕飯はピーマンの肉詰めです」
「はい…」
続く
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