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お仕事
「なぁ父よ、思うのだが…」
「ん?なんだ?」
「なんで仕事の打ち合わせが、毎回我が家のリビングなんだ…?」
「え?んー、なんでって言われても…なー?」
「え、あ…はい。まぁ他に場所が無いと言いますか…昔からの先生の御希望なので…」
「いや、もういっそのこと父が出版社に出向いた方が良い気がして…与田さんも常に忙しそうなわけですし…」
「あーいえ、僕のことはそんなお気になさらずとも…」
「いやいや与田さん、もう何年も父の編集をしていたら流石に気付いていると思いますけど、うちの父は、仕事が小説家なのを良いことに、全く外に出ようとしないんですよ。」
「え…そうなんですか?」
「いやいや与田くん、流石に全くってことは無いぞ。この間だって少し散歩でもしようと思って…」
「近所のパチンコ屋で6万使ったってやつ?」
「そうそう…って、え?お前なんでそれ知ってんの?」
「その日の夜はさらに近所の飲み屋で酔い潰れてて、それを私が迎えに行ったってこと、まさか忘れてないよね??」
「そうなんですか??」
「…いや、覚えている…ちゃんと、覚えているぞ…たぶん…」
「先生、今小さく『たぶん』って…」
「それだけじゃあありません!!!」
「あっ、真空ちゃんの熱量も凄い…」
「この間の健康診断では肥満体質な上に運動不足気味で注意を受けているのに、冷凍庫の中のレディーボーデンのアイス、一人で三個も開けて食べてるし!」
「三個ですか!?」
「いや…あの時はちょっと行き詰まってて…考えてたら…つい…」
「さらにその後はずっとお酒飲んでるし!」
「先生…」
「あははは…」
「その上この間は間違えて頼んだあのピザ、『デラックスチーズカルテット』」
「あーあの『食べ物の域を超えた!』って、よくCMでやってるヤツですか?」
「それを一人で三枚食べてるし!!」
「三枚!?あれを!?先生それはもう人間じゃないです…」
「与田くんそれは言い過ぎじゃない??さすがに傷付くよ??泣いちゃうよ、俺??」
「だから与田さん!!!」
「はい!!?」
「なんとかして父を近所以外の外に出させて、駅が三つ先の出版社まで歩かせて下さい!!」
「えー歩くのはちょっと…」
「多分このままだと、肥満で死にます!!」
「えっ、俺死ぬの??」
「先生死んじゃうんですか??」
「えっ、なんかそうらしい…って、ちがうちがうちがう、死なない死なない、やめてよ恐ろしい…」
「でもそうなりかねないでしょ!その身体とこの生活だと!だから与田さん、なんとかお願いします!!」
「あっ…いや、僕の方は全然構わないんですけど…本当に良いんでしょうか…?」
「どういう意味ですか?」
「いやだって…先生が昔から御自宅で打ち合わせをしてるのって、真空ちゃんを家で一人にさせたくないっていう理由で…」
「えっ…?」
「えっ…もしかして先生…」
「…」
「父よ…とりあえずこっちを向こうか…」
続く
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