父と娘の会話劇

お酒

　「ただいま～って…あれ、珍しいな…」

　「おかえり～って…なにが？」

　「いや、父が珍しく缶チューハイを飲んでいるなんて珍しくない？」

　「そうか？」

　「そうだよ、だっていつもはブランデーとかウィスキーとか日本酒とかワインとか、そういう一見高そうに見えて実はそうでもないお酒を飲んでいるじゃない？」

　「その言い方だと父さんめちゃめちゃ見栄っ張りのイタい奴にならね？」

　「まぁ実際そうだし」

　「容赦ないな。あれらは単に好きで飲んでいるだけだから！別に見栄とかないから！」

　「はいはい…っんで、なんでまたそんなの飲んでるの？」

　「いや、さっき与田くんが編集部の飲み会で余ったヤツを寄越して来たんだよ。」

　「あーそういうことか」

　「そういうことだ。それにしても、最近の酒っていろいろあって、名前とかも結構面白いんだなー」

　「へぇ～どんなのがあるの？」

　「いろいろあるぞ～そこの袋に入ってる」

　「へぇ～どれどれ～…ん？」

　「ん？どうかしたか？」

　「いや入っている酒がさ『スカイブルー』『スミノフ』『レッドブルウォッカ』『タランチュラ』って全部クラブの酒なんだが…」

　「へぇ～そうなのか」

　「うん、よくこんなに集めたなって言うくらいのクラブ縛り…もしかして彼処の編集部って陽キャの集まりなのか？」

　「そうかもしれんな」

　「同意したよこの人、絶対に陽キャの意味わかってなさそうなのに酒飲んでるからかなんでも肯定しちゃう悪い癖が今まさに出ちゃってるよ！」

　「ちなみに父さんも陽キャだぞ？」

　「寝言は寝て言え！！」

　「言い草がスゴいな…近年なかなか聞かないぞそのフレーズ」

　「死語というにはまだ早い」

　「それはまぁ同意」

　「さすが小説家」

　「てへぺろ」

　「それはやめろ！もうそれはほとんど死語だ！瀕死語だ！！」

　「食い気味の否定じゃん、ついでに造語とか、やるな娘よ」

　「それはまぁ、これでも小説家の娘なので…って、なんか話がスゴい脱線して逸れてってないか？」

　「まぁそんなもんだろ、酒入ってるし」

　「便利な言葉だな。そもそも私たち一体なんの話してたっけ…？」

　「…」

　「…」

　「…なんだっけ？」

　「あーもうこれはムリだな…」

　「…光と…闇について…？」

　「父よそれだと厨二病だ！実の父親が厨二病とかイタすぎて耐えられないからやめてくれ！」

　「見栄ではないよ！！」

　「よく覚えてたな！！そのくだりはもう本当に忘れていたよ！！」

　「絶妙な伏線回収」

　「否めない…」

　「アルコールの効果かな？」

　「否めない！！」

　　　　　　　　　　　　　　　　　　続く