浴衣

1/1
前へ
/8ページ
次へ

浴衣

 「あれ、何をしているんだ、父よ?」  「ん?あ~ちょっと押入れの整理をな~」  「へぇ~」  「ん?なんだ、そんなに見て?」  「いや、そんなに行き詰まっているんだな~と思って、仕事が」  「さすがだな娘よ…」  「何年娘してると思ってるのよ…それで…うわーなんかいろいろ出てきたね~」  「そうだな~随分長いこと触れていなかったしな…っん?」  「ん?どうしたんだ、父よ?」  「いやこれ…なんだったかなって…?」  「えっと…これのこと…?」  「そうそう、その平べったい、包み紙のヤツ…」  「開けてみる…?」  「おう、頼む」  『ガサガサ』  「…へぇースゴい、綺麗な浴衣~こんなのウチにあったんだ~」  「…」   「ん?どうかした…?」  「…あっ、いや…なんでもない…」  「なんだよ…なんかあるの、この浴衣?もしかして小説の資料とか…それとも…」  「それとも…?」  「まさか…そういう趣味?」  「どういう趣味だよ!!」  「だってこれ、明らかに女性モノだし…それともまさか、酔った勢いで買って来たとか!?」  「そんなの買うとこまで酔ってたら、多分父さん、意識なくなってるよ、それにほら、それは明らかに高そうなヤツだろ…」  「一体いくら使ったの…?」  「信用してないね!!!」  「するわけないでしょ!!だってこの間のあの缶チューハイの時だって、夜中にいきなり外に出て、そのまま帰って来ないと思ったら、駐車場でそのまま寝落ちしてたじゃん!!」  「いや…あれは…」  「そもそもわかりづらいんだよ、酔ってるときも普段と変わらない感じで喋るし、顔も赤くならないし、そんで大丈夫なのかな~って思ってたら急にそういうことをするんだもん!!」  「いや…それは…」  「何か言うことはある?」  「…」  「…」  「すまん…」  「本当にそう思ってる…?」  「思ってる思ってる…今度からは気を付け…」  「じゃあ~この浴衣私にちょーだい!!」  「えっ、なんでそうなるの!?」  「迷惑を掛けたことに対しての報酬というヤツですー」  「え~そうなるのかよ~」  「いいじゃん!どうせそんな身体じゃあ~こんなの着ることなんて、一生ないんだから~」  「いや…たしかにそうだけどさ…」  「ねぇ、だめ…?」  「…」  「…」  「あーわかったよ、いいよやるよ!」  「ほんと?やったー!!」  (その代わりに、ちゃんと大切にしてやれよ~)  「えっ?今なんか言った?」  「いいや、なんでもない…そういや明日、夏祭りあったよな?」  「えっ…あーうん。そういえばそうだね」  「久しぶりに、一緒に行くか?」  「ほんと?全部おごり??」  「あーハイハイ、奢る奢る、誰が娘から金をとるかよー」  「へへへぇ~だよね~」                    続く
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加