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オーディション後の帰りの電車の中でも明梨は、アイドルグループの名前を考えていた。
「どうしたの?せっかく合格できたのになんか暗いよ?」
「…ぇぇ、あ、ううん…」
隣の席に座っているのは、今日のオーディション会場に一緒についてきてくれた明梨の姉の山本日向。
ほかの乗客はおらず姉と二人だけのこの状況に、明梨は今日あった出来事を話す。
「今日ね浜名さんからアイドルグループの名前を考えてって言われたの」
「明梨はどんな名前にしたいの?」
「考えたことないんだよね」
自己紹介の時に言い出せなかったが、明梨も10歳の頃から子役として活動していた。
だけど、出演するのは再現ドラマなどよくある学園ドラマ、与えられる役はエキストラや一言もセリフがない役ばかりだった。
スポットライトを一度も浴びることなく前の事務所と契約が終了した。
芸能活動を続けるために数々のオーディションを受けて、たまたま受かったのがセオドア芸能事務所のアイドルグループだった。
もともとアイドルに興味もなかったから、アイドル像なんて想像もつかない。
そんな明梨を心配するように日向が声をかける。
「アイドルも人間なんだからさ、なりたい人間像とか世界がこうなれば良いなとか、考えれば良いんじゃないかな?」
「なりたい人間像?」
思い出してみればずっと主人公になりたいと思っていた。
どこかの誰かがコメントをしているような、誰もが人生の主人公になれるようなそんな世界に明梨は静かに憧れている。
「ありがとう、お姉ちゃんなんか見えた気がする」
やれるところまでやろうと、明梨は覚悟を決めた。
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