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シャワーを捻る。
ちょっと弛めで出しっ放す、にした。
もちろんバスタブにお湯は張ったけど、迷わず先に洗う、にした。
湯気の匂いとシャボンの匂いは最強のコンビだど思う。
3回目のシャンプーで、やっと泡が立ってきた。
ぺたんと座り込んでる。
おとなしい。
ものすごくおとなしい。
おいで、ていったら素直についてきた。
何をしてもされるまんまだ。
シャンプー5回目。で一辺置いといて、そうだな、首と腕と背中と、それとその足。洗ってあげよう。
やっぱり男の子だった。
(もっとも女の子には見えなかったけど)
いきなり裸に剥いても、全然恥ずかしがりもしない。もしかしたらすごく幼いのかな。
「自分で洗う?」
そういって、泡を掌に載せてやったんだけど、いつまでもただ泡を眺めてるだけで動かないから、めんどくさくなった私が、がしがしと一気に洗ってやった。
「入りなよ。」
少し寒そうだったのと、折角お湯を溜めたのと、でバスタブに浸からせた。
思った通り、碎けた鎧が銀色の鱗のように、キラキラと浮かんで揺れて沈んでまた、浮かんだ。
湯気がゆっくりゆっくり、シャボンの欠片をつれて昇ってった。
ゆっくりなにかはほぐれるか…?
剥がれるものは多すぎる。
タオルとドライヤー。
タオルはともかくドライヤーをONにするのもかなり久しい。
ちゃんと動いた。よかった。
けどこの頭乾かすのにだいぶかかるかな、そう思ってたとき、くたん、て座り込んでしまった。
ああそっか。そうだった。
それが随分と久しぶりならば、お風呂に入るはとても疲れる になる。
いきなり運動したのと同じこと、いきなり肉体労働させられたのととても似たこと、になるから。
「ちょっと休もう。」
バスタオル三枚で包む。
がりがりしてるからバスタオルがぶかぶか。
私が借りたこの家は敷地があまりに狭すぎるから縦に積まれた、そんな家。
昭和のナレノハテみたいなこんな住居が、ここらはまだたくさん建ってる。
ともかく1階にあるのはトイレとお風呂と台所と、もうしわけ程度のスペース(テーブル1個分くらい)。
横になれるのは2階だけ。
「2階に上がるよ。」
コップにお水をいれて渡した。水道水だったけどちゃんと飲んだ。で、立ち上がった。
素直じゃないか。本当にそう思った。
押入れにまだ一度も使ってない寝具がある。
その布団を敷いてやる。
干しとけばよかったな、て思いながら。
「さ、横になれるよ。」
シーツを敷いてからそう伝えた。潜り込もうとするバスタオルの塊。
そうそう、着替えもある、あるよ。使われなかった布団と一緒にある。
封されたまんまの新しいパンツとほとんど白のキナリのスウェットの上下。
着せてみたらまだ少し大きい感じだけど、着れるね。
横になるカレにレモングラスを渡してやる。両手で握ってずっと嗅いでる。
その間にまだ湿ってるその髪を、バスタオルでずっと拭いた。
私は子供を産んだことがある。結婚してたときだ。
男の子だった。
「おかーさん、だーいすき」ていきなり足にきゅてしてきたりした。
でも離婚することになって置いてきた。3才になる少し前のこと。
私には、仕事が、住む家が、強い人脈が、お金が、何もなかった。
私に能力はないとされて、自分でもそうだろうなと頷いてしまった。
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