はなひらく

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知らない天井。 「気がつきましたか?」 知らない人。 自分は精神科医だという。 そうか。ここ、病院だな。 あのこはどうしたんだろう。 「ガリガリでぼさぼさの頭の裸足の男の子が、交番に来て"おばさんが死んじゃうから助けて"て言ったそうです。」 精神科医がそう言った。 そっか。歩いていって、喋ってくれたのか。 それから女の人が来た。市役所から来ました、という。相談員をしてる、とも言った。 そして私が退院する頃には、諸手続きが粛々と終わり、私の生活は保護されることになった。 これもあのこが交番に行ってくれたからかもしれない。お巡りさん経由だったから議員さん経由並みにスムーズだったんじゃないかな。 安い部屋に引っ越すことになった。レモングラスと布団と家電を少し持っていくことにした。 レモングラスが枯れてなくて嬉しかった。 引っ越す直前にあの家にいってみた。あのこが戻ってるのかもと思ったから。 ところが家は外側から不自然に施錠されてて、連絡を待つの張り紙があった。 連絡先は交番だった。 交番にいってみた。 まだ若いお巡りさんが話してくれた。 世帯の確認に巡回するのだけど、ここ数年確認がとれない家、いついっても誰も出ない家があって、それがあの家だった、と。 「あの男の子が来たときピンときたんです。あの家の子だって。」 そこでお巡りさんは事件性がある、でやっと家に入れたそうだ。 「そしたら誰もいないようで。」 防犯上、外から施錠して連絡を待つことにした、という。 あのこはどうしたんだろうそればかり思えた。 「役所で保護したと聞きましたが。」 お巡りさんが申し訳なさそうにいった。 引っ越してから数日後、私は電車に乗ってた。 レモングラスの鉢をもって。 昨日あの相談員をしてると言う女の人から電話があった。 あの、あの男の子のことなんですが、 あのこは来月16才になることがわかって、護ってやれる法律がなくなるのです。 居場所を聞いた。 病院にいるらしい。 だから電車に乗った、レモングラスももって。 古くて広い病院だった。 とりあえず一人の部屋に入れてある、という。 「セルフネグレクトがかなり重症なのですが、自傷行為は収まっているようです。全く見られないといっていいと思いますね。」 並んで歩きながら医者がそんなことをいってた。 「おはよう。」 そう言いながら医者が先に入った。 ベットのうえで丸こまってるのがあのこだろう。 もさもさしてる頭の先が見える。 私はとことこベットの傍にいって、レモングラスを摘んで差し出した。 匂いがしたのか男の子が顔を出した。 後ろにいた看護士(介護士かもしれないけど)がはっと息を飲んでたけど医者に止められてた。 レモングラスを渡すと両手で握って匂いを嗅ぎ出す。 「…お巡りさん、呼びにいってくれたんだ。ありがとうね。」 私はもしゃもしゃ頭を撫でた。ずっとずっと撫でた。
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