はなひらく

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窓のカーテンを開けた。 レモングラスの鉢に陽を翳してやろうと思ったから。 開けるとちゃんと、陽は入り込んで来る。 窓の端っこに鉢を置いてみる。 前にカーテンを開けたのは、あれは…何年前だっけ。 陽はきちんとレモングラスに注がれてる。 メールがきてた。 「このたびのご応募ありがとうございました。誠に残念なから…」 書類で落ちる。 ハローワークから応募してもらったところ。 応募する前からわかってた。 たぶんハローワークのヒトもわかってた。 それでも応募してみましょうと言うしかないヒトと、お願いしますと言うしかない私と。 だからこれはただの予定調和。 失業給付金が終わった。 1年て書いてあるけど、申告が3ヶ月おくれて、それから3ヶ月パスだから、実際は半年だけ。 次の入金はもうない。 ずっとパートだったから企業年金とか自前の保険金なんて能力はない。 失業給付金貰えるよ、自体が奇跡みたいなもの。 私頑張った方だったんだなとも思った。 でも、 …もう、いいかな。 そう思った。 もう、いいや。て。 もちろん、パートやバイトや求人はある。 だから、採用されるまで探し続けるは可能なんだ。 ただそれは、私の年とか経歴とかではかなりハードモードだけど。 でも、かつてはやったし、やれた。 年は更に経てハードルは更に高くなる。 で、もういいかな。て。 年を取った、それだけかもしれない。でも、もういいや。それだけがずっと響く。 だって、きりはないんだ。 生きるのにはお金がかかる。 最後の給付金は12万と6千円だった。 ちょうど家賃と光熱費ぶんとあとほんの僅か。 通帳に残る金なんかあるはずもない。 家賃は先払いなので、月末までの数週間とあと丸々一ヶ月はここにいられる。 食べるを止めればいい。 一ヶ月半くらいあれば、十分じゃない? ばばあの命ひとつくらい片付くんじゃない? 頑張っても頑張っても、ダメだったお店を畳むように、自分を畳んでしまおう。 できるだけ静かでできるだけ綺麗に片付ける。 部屋に掃除機をかけた。 毎日かけよう。 動かなくなる日まで。 まだあるものはもう要らなくなるものだから、要らなくなる前に捨てていこう。 ちゃんと分別もして、ちゃんと決まった日の決まった場所に、捨てていこう。 普段通りに動きながら"食べる"だけを止めればいい。 どんな生命も食べないと終わるのだ。 動けなくなるまでに全部きれいにしよう。 そう思って手を動かしていた。
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