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これと同じ物をお探しですか?
月に一度はこんなお客様がいらっしゃいます。
「これと同じ物を下さい」
「何かタグかレシートはお持ちですか?」
「これと同じ物だから」
そう言って履いているズボンを引っ張りながらレジまで詰め寄ってきます。
まだ新しい物ならウエストの標記を見ればわかりますが、履き倒した物はその標記すら消えているのでただの布がピラピラしてます。
「ちょっと見せて下さいね」
タグは真っ白です。サイズもメーカーもわかりません。
「似たズボンでも良ければ見てみますか?」
「ここで買ったからあるはずだ」
「一応探してみますね」
「ここで買ったんだよ、あるはずだ」
あまりににも頑なに言われてしまうと困ってしまいます。
実際にお買い求めいただいたとしても、廃盤になっていたり取り寄せでないとならない物もあります。
「前にここにあったんだよ」
そう言ってお客様は平台を指差します。その平台は度々入れ替えをしているので、今は無い物もあります。
「じゃぁ見てきますね」
「だからここにあったんだよ」
タグ消えてるし証拠ないやん。
商品を探す前に先ずはポスシステムで商品照会してみます。予感は的中。廃盤になっていました。
「もう廃盤になっているので同じ物はないですね、すみません」
「前にここで買ったんだよ」
「もうメーカーでも作っていないので同じ物は無いです。なので似たものならご用意出来ますので見てみますか?」
「あったんだよ」
無いです。
あると言い張るお客様をよそに、似たような物を持ってきて見ていただきました。
「あるじゃないか」
「似たものです。ではウエストのサイズはいくつですか?」
「八十一くらいだ」
それは、アンタの年齢やんか。
「このシリーズは七十九か八十二になりますね。一度試着してみた方が良いかと思います」
お客様はそれを持って試着室へ入られます。
しばらくすると
「全然入らないけど、どうなってるんだ」
見てみると、全然入らないけどどうなってるんだと言われる意味がわかります。
ボタンとの間が十五センチくらいあいていて、閉まる気配はみじんも感じられません。
「小さすぎますね。違うのをお持ちしますね」
私は九十一サイズを持って試着室へ向かいます。
お客様はズボン下のまま待っていました。
カーテンくらい閉めとけや。
そのズボンを渡すとモソモソと履き始めます。因みに当店の試着室は鳴きの床になっていてキィキィ鳴き続けます。
音が止んだところで声を掛けました。
「どうですか?」
「丁度いいなぁ」
「大丈夫そうですね」
「これ、同じ奴だろ?」
違います。
実際に履いていただいて納得ができればそれで良いと思います。
そのズボンが廃盤になったのは何年も前なので、現時点で同じ物は無いと思ったほうが無難です。なんせタグの標記が消えてるんで、かなり使い込んでいただいた形跡はありました。
今回は気に入った物が見付かったので、お客様も喜んで帰られました。
同じ物がいつまでも置いてあるとは限りません。廃盤になったりリニューアルしたりはいつもの事です。
私達従業員からのお願いです。
自分のサイズはわかっとって下さい。
本日もご来店誠にありがとうございます。
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