心の声が漏れているお客様

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心の声が漏れているお客様

 当店の開店時間は早いです。その事実を知らないお客様の方が多いようです。  私達は出勤したら直ぐに荷出しを始めます。バックヤードなどという洒落た作業場はないので、最小限エリアを心がけながら店内で広げ始めます。  午前中に終わらないときもあります。体力勝負です。辛いです。  そんな中、一組の男女のお客様がいらっしゃいました。私共は荷出しをしながらレジを見たり、接客をしたり大忙しです。  気が付くと女性のお客様がレジ待ちしていました。急いで向かっている途中、 「おい、会計!」  男性のお客様に怒られました。待たせてしまったようです。女性のお客様は黙って立っていました。その直ぐあとに 「返事くらいしろ!」  また怒られました。  ふぁぃ。(可愛らしく、わざとらしく)  お買い求めの商品をスキャニングしている間、ずっと側をウロウロしながら小声で文句を言っていました。 「客を舐めてんのか、いい加減にしろ」  ハッキリ言えや。  男性のお客様が来てカードを出してきました。どうやら支払いはクレジットで男性の方が手続きをするようです。 「ではカードを差し込んで下さい」 「カード入らないぞ。どこに差し込むところがあるんだ?」  全く違ったところに差し込んでいらっしゃいました。そこは机と機械の間です。そりゃ反応しません。 「お支払いは一括でよろしいですか?」 「……」  返事くらいしろ! 店員なめてんのか! 「音が鳴るまでお待ちください」 「……」  ピピピピ(手続き終了音) 「……」(伝票処理してます) 「もういいの? 取り出していいのか? どうなってんだよ、何とか言えよ」  ピピピピやろが。  終始機嫌が悪かったようなので、私も無駄な声かけはしません。  男性のお客様はずっと文句を言って、私からしたら挑発を受けているようにしか思えません。  黙れや。  男性のお客様は最後の捨て台詞のつもりで言ったのでしょうね。 「ここの店は態度悪ぃなぁ」  あざーす。 「こんなとこ二度と来ねぇぞ」  毎度あざーす。 「ありがとうござぁいまぁす」  心の声を誤魔化すように元気よく見送ってあげました。  こちらとしてはご来店いただいたお客様は選ぶことができません。最善の接客を心がけておりますが、もし最高級の接客をお望みならば、それなりのお店へ足をお運びになった方がよろしいかと思います。  従業員からのお願いです。  レジ不在時、黙って突っ立っていないで声を掛けて下さい。それが無理なら咳払いでもいいです。よろしくお願いします。  当店、人員も少ない上に、最低価格安売り店になっております。ご了承下さい。  本日もご来店誠にありがとうございます。
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