第6章/5人の完遂

1/3
前へ
/18ページ
次へ

第6章/5人の完遂

自販機前で なにはともあれ、3人の添乗レディーと客であるオレは無事、”達する”ことができた。 まあ、所詮、夜の風変わりな市井を生きる大人の戯れだ。 たいそうなものではなことを百も承知で、運転手のヒデ君を含め、車内の5人は何とも言えない充実感を共有していたと思う。 それは、接待側も客もなくで…。 *** 「りりかさん、自販機ありますね」 「そう…。じゃあ、止めてちょうだい」 自宅までもう、わずかという交差点脇で花タクシー車は静かに停止した。 「タカコちゃん、奥山さんに何か冷たい飲み物をね…。小銭は助手席の足元にあるバッグから出していいから」 「はい…」 すでに概ね服を纏っていたりりかへ、タカコからは実に”いい返事”が返ってきた。 ”ビフォワーアフター”…。 何故か一瞬、頭の中にそんフレーズがタカコを見て浮かんできてね…。 *** 「じゃあ、オレが選んでいいですか?」 ズボンを元に戻し、りりかへ顔を向けてそう”提案”すると、彼女はしっかり察してくれて、さずが年季の入った夜の蝶と無言で呟いてしまったよ。 で、彼女はニコッと笑って、「じゃあ今、降りますね」とね…。 「奥山さん、どれがいいですか?」 「うん、炭酸が飲みたいかな」 「コーラでいいですか?」 「ええ、お願いします」 彼女は自販機から取り出したペットボトルのコーラをオレに渡した後、何か言いたそうな顔つきで、「あのう…」と言ってきた。 オレは彼女の意を汲めたので、その場から助手席に戻っていたりりかに声をかけたんだ。 「ああ、りりかさん…!すぐ戻りますから、外で飲んでいいですか?」 「ええ、どうぞ」 彼女はここでも瞬時にこっちの様子を察し、またもにっこりだった。 *** オレがタカコの方を向いたままコーラを口に運んでいると、地味な笑顔を浮かべたタカコが話し出してきてね…。 「…奥山さん、今日はすみませんでした。…私、慣れてなくて…」 「いいえ。こちらこそ、いろいろ出過ぎた態度を取ってしまった」 「そんな…」 「出過ぎついでに言わせてもらうかな。タカコさん…、あまり無理はしない方がいいと思うよ」 彼女はすぐにピンときたようだったよ。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加