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私は両親の顔を知らない。
気がついたらこのコルベール家で使用人として働いていた。
旦那様も奥様も温和な方で、子供には恵まれなかったが毎日仲睦まじく暮らしていた。
しかし私が10歳の時、旦那様と奥様は1人の女の子を連れてきた。
私と同じぐらいの年で、名前はロベリア。人形のように顔立ちが整っており、長く伸ばしたアメジストを彷彿とさせる紫髪は彼女の美しさをより際立たせていた。
旦那様と奥様は、ロベリアをこのコルベール家の跡継ぎとして養子に迎え入れたのだ。
その日から私は、ロベリアの世話をすることになった。
「ロベリア様、おはようございます。」
「おはようカスミ、今日も遅刻よ」
「申し訳ありません」
深々と頭を下げる私の目の前にいるロベリアは、すでに支度を済ませて机に向かっていた。
ロベリアは高飛車で傲慢な性格。何事にも厳しく、それは下僕の私に対してもそうだった。
「万が一にも私が寝坊していたらどうするの?私が遅刻しても貴女は責任取れないでしょう?」
「申し訳ありません。お嬢様。」
ロベリアはこの国でも有数のお嬢様が通う女子校に通っている。
世話役の私も自然と同じ学校に通うことになった。
ロベリアは私が起こしに行くと、いつも支度を済ませている。朝食までの時間に授業の予習をするためだ。
「もういいわ。朝食の用意をしてきなさい。」
「かしこましました。」
再び頭を下げてロベリアの部屋を後にする。
そこから私は朝食の支度をする。
ロベリアは私の作ったものしか食べないからだ。
今日のメニューは焼きたてのパン、オムレツ、野菜スープ、デザートにりんごをうさぎ型に切る。
テーブルに並べ終えるとロベリアを呼びに行く。
私が促すと1人きりの広いテーブルでロベリアは朝食を食べ始める。
「このパン、苦いわよ。少し焦げてるわ。おこげは体に悪いのよ。」
「申し訳ありません、お嬢様」
「オムレツもぐずぐずよ。半熟と生焼けの区別がついていないんじゃなくて?」
「申し訳ありません。お嬢様」
ロベリアの駄目出しがくどくどと続く。これも毎朝のことだ。私はひたすら頭を下げて床を眺めていた。合言葉は「申し訳ありません。お嬢様」だ。
「精進しなさい。学校に行くわ。貴女も支度なさい。」
「はい、お嬢様」
食べ終えたロベリアの食器を下げる。後の片付けは他の使用人の人達に任せて学校へ行く支度をする。制服に身を包んでコルベール家の扉を開ける。今日も嫌味なほど太陽がさんさんと輝いていた。
「遅いわ。貴女私を遅刻させたいの?」
「申し訳ありません。お嬢様」
「もういいわ。鞄持ちなさい」
ロベリアの分と2つの鞄を持ってコルベール家を後にする。
「きゃ~~!ロベリア様~~!!おはようございます!」
「ロベリア様~~!!今日もお美しいですわ~~!!!」
学校に着くなり、女の子達が端に避けてロベリアの歩く道が出来上がる。ロベリアは女の子達の視線を独り占めした。
「皆様、お静かに。レディがそんなに大声を出してはしたないわよ。」
「きゃああああ!!怒られた~~!!」
「あら!今のは私が怒られたのよ!」
「違うわよ!私よ!」
果てはこんな喧嘩まで起こる始末。それもそのはずで、ロベリアの成績は常に学年トップ。クラブ活動のテニスは全国大会で優勝している。その上由緒あるコルベール家の息女で、誰もが振り向く美貌の持ち主。全校生徒のほとんどがロベリアのファンと言っても過言ではない。
「相変わらず大人気ですね。お嬢様」
「当たり前よ。私を誰だと思っているの」
3歩後ろを歩く私のことなど全く振り返らず、ロベリアは颯爽と進み続ける。
ロベリア、貴女はそれでいい。私は貴女に完璧なお嬢様でいてもらわなければ困るのだから
「ねえ見た!?この前の試験の結果、またロベリア様が全教科満点よ!」
「当然じゃない!ロベリア様だもの」
休み時間中、次の授業に向けて予習をしていた。クラスの女の子の間ではロベリアの話で持ちきりだ。
「でもまた2位があの子だったのよ。」
「あー、あのロベリア様の金魚の糞ね。地味で身分も低いくせに本当に生意気よねあの女。」
「見てよ。あの赤茶けた黒髪。手入れもされてなくてバサバサだし。なんてみすぼらしい」
「仕方ないわよ。たかが使用人だし。あれで成績も悪かったらロベリア様の沽券に関わるでしょう?」
「それもそうね。ロベリア様もお可哀想。あんな貧乏人が下僕だなんて」
突き刺さる視線を無視して予習を進める。
「今の取れたでしょう!?踏み込みが遅いのよ!だから貴女はいいところで勝てないの!」
「申し訳ありません!部長!」
「ほら、もう一球行くわよ!」
「はい!」
時は変わって放課後、私とロベリアはクラブ活動に勤しんでいた。
ロベリアはテニス部部長として部員の指導に力を入れている。
私は副部長で、今は部員との試合の最中だった。
「どこ見てるのよ!?貴女の相手は私よ!」
ロベリアに気をとられていると、鋭いサーブが飛んでくる。
でもロベリアのそれとは比べ物にならないそれは私にとって脅威になり得なかった。
両手でラケットを握り、踏み込みをつけてジャンプと同時にサーブをクロスに返す。
「ふぃ、15-0!」
鋭いリターンエースに相手は反応できず、審判の子もあっけに取られていた。
でも正直私にはどうでもよくて、ラケットのガットをカリカリといじりながら、ポニーテールを揺らして汗を流すロベリアを眺めていた。
「全く、大会前なのに皆どうして詰めが甘いのかしら。」
「その通りです。お嬢様。」
「貴女はまだましだけど、驕るんじゃないわよ。情けない試合をしたら私の名誉に関わるんですからね。」
「勿論です。お嬢様。」
夕暮れの帰り道、ロベリアの愚痴を聞きながら下校する。
公園の前を通りかかった時、ロベリアは足を止めた。
「カスミ、喉が渇いたわ。スプリングムーンのアイスティー買ってきなさい。」
「かしこまりました。しかしここから歩いて30分はかかります。戻って来る頃には日が暮れてしまうかと」
「走っていけばいいでしょう?私を待たせないでちょうだい。」
「かしこまりました。」
テニスで酷使した体に鞭を打って走り出す。日が暮れるまでに帰らなければ叱られるのは私だ。しかしお嬢様の命令は絶対。私はただただ走って目的地を目指す。
目当てのものを手に入れて、戻ってくるとロベリアは公園のベンチにいた。
一人ではない。男の子と一緒だ。あれは近所の共学の学校の制服。
ロベリアは年相応の少女の顔をしていた。
すると、男の子はロベリアに花を渡した。ロベリアに似合わない白くて可愛いダリアの花束。
ロベリアは頬を高揚させて喜んでいた。
駄目よロベリア。コルベール家の娘がそんな顔をしちゃいけない。貴女にふさわしいのはそんな平凡な男じゃない。
アイスティーの入った容器を握りつぶしそうになったところで、ロベリアはこっちに気づいた。慌てて表情をいつもの冷たいものに戻す。男の方は別の入り口から逃げるように帰っていった。
「遅いわ。飲み物1つに何分待たせるの?」
「申し訳ありません。お嬢様。」
「まあいいわ、早くから寄越しなさい。」
何事もなかったかのように私からアイスティーをひったくる。花束を抱えて3歩前を歩くロベリアの背中を前に、私はぎりっと歯軋りをした。
「おかえりなさい、ロベリア。あら、綺麗なお花ね。貴女にとっても似合うわよ。」
「お、お義母様!お義父様!明日まで海外にいらっしゃるはずでは……。」
「急に予定が空いてね、1日早く帰ってこれたんだ。久しぶりにお前と夕食をとりたくてね。」
「まあ、嬉しいですわ。」
「さあ、今日はカスミも一緒に食べましょう。もう用意は出来てるのよ。」
「いいえ、奥様。私はそのような身分ではありません。」
「何を言っているんだ。私達にとってお前も娘のようなものなんだ。さあ、早く着替えてきなさい。」
「わかりました。」
自室に戻ってため息をひとつつく。気は進まないがあの3人の夕食にお邪魔すべく私は私服に着替え始めた。
「それで向こうの方が飼っていた犬が可愛くてね。」
「まあ、私もぜひ見てみたかったですわ。」
「私達も犬を飼いましょうかね。きっと家が賑やかになるわ。」
家族団らんの中に1人部外者が入ったことに居心地の悪さを感じつつ、食事を進める。
しばらく談笑が続いた後、ところで、と旦那様が口を開いた。
「お前もそろそろ年頃の娘だ。私達もお前の婚約者を決めなくてはと思っていてな。」
「えっ?」
「今回の海外出張はお前の婚約者を探す意味もあったんだ。」
「そしたらね、とってもいい人が見つかったの。背が高くて美男子でとても紳士な方だったわ。きっと貴女も気に入ってくれると思うの。」
「そんな……私には早すぎます。」
「急な話で悪いが、一度でいいから会ってみないか?きっとお前も気に入るよ。」
「はい……。お義父様……。」
ロベリアがそれから終始浮かない顔をしていたのを、私は見逃さなかった。
その夜、他の召使い達が寝静まった頃を見計らって、ろうそくを持ってロベリアの部屋へ向かった。
扉の前に来ると、ロベリアの部屋をノックする。
「ロベリア、入るわよ。」
扉を開けるとロベリアはいなかった。
正直予想はしていた。こんな時ロベリアが行くところはただ1つ。
私は庭の花壇へ向かった。
「やっぱりここにいた。」
ロベリアは花壇の中心に鎮座する噴水に腰かけて、膝に顔を埋めていた。
「何やってんのよ。こんな時間に出歩いてたら朝起きられなくなるでしょう?」
今しゃべっているのはロベリアではなく私だ。ロベリアはおずおずと顔を上げる。
昼間の顔は見る影もなく、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになり、眉は下がって唇も真一文字に結ばれていた。
「カスミ……。」
「何よ。」
ロベリアは目から涙をどばあっと流し始めた。
「わだじ婚約なんがじだぐな゛いよおおおお!!!」
高飛車で傲慢なコルベール家の息女がこんな顔をすると誰が思うだろう。
この顔を知っているのは世界を見渡しても私だけ。
「仕方ないでしょ。お金持ちの結婚なんてそんなものよ。」
「わかってる!!わかってるけど……。」
「わかってるなら何が嫌なの?まさか貴女、私と最初した約束を忘れたわけじゃないでしょうね?」
それは7年前に遡る。ロベリアがコルベール家に来た時の話だ。ロベリアは広い自室を与えられても、綺麗なドレスを何着も与えられても全く喜ばなかった。それどころか毎日泣いて過ごしていた。あの日も自室に籠って今みたいにぐずぐずと泣いていた。
「お金持ちの子供なんてなりたくない……。孤児院の皆のところに帰りたい……。」
「何を贅沢言ってるの?貴女はコルベール家の養子になったの。これから生きていくのに何も困らないわ。」
「でもここには皆いないもん!!友達がいないの嫌だよ!!」
「甘ったれてんじゃないわよ!!私なんかねえ、ずっとここの養子になりたかったのに貴女が来たせいで台無しになったのよ!!男の子ならまだしも女の子なんて……今すぐ貴女を絞め殺してやりたいわ!!」
私は泣き止まないロベリアを慰めるどころか、嫉妬から汚い本音をぶちまけた。
「そうだ!私の代わりに貴女がここの子供になってよ!」
「はあ!?」
「私は皆のところに帰れるし、貴女はここの子供になれる。ね?いいでしょう?」
ぐちゃぐちゃの顔を向けて懇願するロベリアに殺意すら湧いた。
「貴女……どこまで私を馬鹿にしたら気が済むの?」
「えっ……?」
「私は物心ついた時からこのコルベール家に仕えていた。でも旦那様にも奥様にも選ばれなかった。貴女は選ばれたのよ。だから貴女にはこのコルベール家を背負う義務がある。」
「そんなの私に出来ないもん!!」
「ぐだぐだ言ってんじゃないわよ!!貴女はもうここの子供なの!この家は貴女が背負っていくの!!出来ないことは私が徹底的に叩き込んであげるわ。そして私よりすごい子だって証明しなさい!そしたら私は一生貴女についていくわ。」
「ほ、本当!?」
「勿論よ」
「あの約束を忘れた日はないわ。だから私は一生懸命勉強した。貴族のマナーも帝王学も徹底的に学んだ。全部嫌になって出ていきたくなったこともあったわ。でも、あの約束があったからここまで来れたのよ。」
「じゃあ婚約も受けなさいよ。」
「でも、私、もう、あの約束を守る気はないの。」
「……は?」
頭を鈍器で殴られたようだった。
「私、もう嫌なの。貴女とこの関係を続けるのは。コルベール家を捨てるつもりはないわ。でもだからこそ、自分の相手は自分で決めたいの。貴女と、どうありたいかもね。」
頭が真っ白になる。
ああ、この女も私を捨てるんだ。
自分の相手ってあのひ弱な男のことでしょう?
どうせコルベール家の財産が目的よ。結婚したらあんたなんかどうでもよくなるわ。
そんな男との子供を跡取りにするわけ?それがコルベール家の為になると思ってるの?
そんな男とのおままごとみたいな恋愛を理由に、私との約束を破って、婚約を破棄しようとして。
真っ白な頭はどす黒くドロドロしたもので埋め尽くされていった。
「ねえ、カスミ。私は……」
「やっぱり貴女、駄目ね。」
「え?」
ロベリアの体は宙に浮いた。私が突き飛ばしたのだ。ロベリアの体は噴水の中に落ちる。
「な、なにすっ……ガボッ!!ゴボッ……」
浮いてこないようにロベリアの顔を押さえつける。
ロベリア、貴女がずっと嫌いだったわ。
なんの努力もせずに私の欲しいものを手に入れたくせに、それをいらないと泣きわめいて。
でも貴女が甘さを捨て去ったら、私は負けを認めて一生貴女に尽くすつもりだった。
でもどうやら見込み違いだったようね。貴女はこの家を背負って立てる器じゃない。
でも安心して。私は逃げない。コルベール家の為なら全て捨てられる。
どんな宿命も運命も受け入れる。それが私を捨てた全てに対する復讐だから。
ロベリアは動かなくなった。水に浮かぶ体は芸術家が描く絵画のように美しかった。
私は部屋に戻るのも忘れて、しばらくロベリアの水死体に見入っていた。
「皆さん、おはようございます。」
「きゃ~!!!カスミ様~~!!!」
学校に行くと、出迎えの女子の波に押し出された女子がこけっと私の前に押し出される。
「す、すみません!!カスミ様!!」
「いいんですよ。それよりお怪我はありませんか?」
「は、はい!」
「皆さん、危ないですからもう少しお静かに」
「「「きゃ~!!!カスミ様お優しい~~!!!」」」
あれから数ヶ月、ロベリアがいた位置には私が収まった。
ロベリアの水死体は翌朝別の召使いが発見した。ロベリアの死は事故として処理され、誰も私を疑わなかった。あれから奥様はショックで今も寝込んでいる。残された旦那様も失意の底に落とされ、お仕事が手につかなくなった。私は旦那様を甲斐甲斐しくお世話した。そのかいあって私はコルベール家の養女にしていただいた。ロベリアがするはずだった婚約の話も受けた。世間知らずのお坊っちゃまをたらしこむのは簡単だった。
使用人じゃなくなったことで今まで以上に学業、スポーツ、帝王学まで学ぶことができた。容姿も磨くことができた。元々容貌は悪くなかったし、赤茶けた髪も今は烏のように真っ黒でつやつや。荒れていた肌もニキビひとつない。今では私が学園の注目の的だ。
私は全てを手に入れた。もう迷うことも悩むこともない。
その時、ざあっと一陣の風が吹き抜けた。辺りに花吹雪が降り注ぐ。
紫色の花びら。ロベリアの色。
色褪せていた記憶が網膜にチカチカと写りこむ。
「見てよカスミ!お花がいっぱい!キレー」
「花なんか何の役にも立たないじゃない。あんたが男の子だったら女の子への贈り物になったけど」
「えー、女の子だって女の子にお花あげるよ?」
「私はあげたことももらったこともないわ」
あのとき、ロベリアは何を思ったのかその辺に生えてた雑草を摘んで私に渡してきた。
「はい、あげる!」
「いらないわよ、そんなしょぼい花。」
「えー!あげるったらあげる!!」
「いらないって言ってんでしょそんなもの!」
ロベリアは目を潤ませて今にも泣き出してしまいそうになった。
「わかったわよ、もらうわよ。」
「わーい!」
「ったく、何がそんなに嬉しいんだか」
「えへへー、私が大きくなったらカスミにもっと綺麗なお花あげるね!カスミに似合う可愛いお花!」
「いらないわよ。宝石の方が嬉しいわ。」
「うう~……。」
「あー!!はいはい!!わかったわよ!!楽しみにしてるから泣くんじゃないわよ!!」
「わーい!」
(あの花、もしかして……)
弾かれるように学校を飛び出した。
屋敷に戻るとロベリアの部屋から召使いが出てくる。手にはあの日ロベリアが抱えていたブーケを抱えていた。
「返して……。」
「カスミ様?今は学校にいらっしゃるお時間では……」
「返して!!それは私のよ!!」
召使いから花束をひったくる。ロベリアの部屋に転がり込むと同時に後ろ手に扉を閉める。
主人がいなくなってから時が止まった部屋を眺める。
さっきの召使いは掃除をしていたらしく、部屋の窓は開け放されていた。
手元の花束に目をやる。
花束はすっかり枯れて純白で可憐な花は見る影もなかった。
茶色く枯れきった花の間から『カスミへ』と書かれたメッセージカードが出てきた。
導かれるようにカサリと渇いた音と共にそれを開く。
『カスミへ。
今日は変なところ見られちゃったね。恥ずかしいから手紙にすることを許してください。ほら、今日は貴女の誕生日でしょう?この花はそのお祝いよ。貴女を驚かせたくてこっそり用意していたのだけど。小さいときの約束、貴女は覚えていないかもしれないけど、今はこれで勘弁してね。そのうちもっと立派になってカスミの部屋を可愛いお花でいっぱいにしてあげるから!だから、ずっと傍にいてね。
ロベリア』
「誕生日なんて、あんたが勝手に作った日じゃないの。」
自分が生まれた日なんてどうでも良かった。親にだって捨てられたどうでもいい存在だから。誰も、私自身も自分の生まれた日なんて知らなかった。でも、ロベリアは勝手に私の誕生日を決めて、毎年私の誕生会を開いてくれた。二人でこっそり小さなケーキを囲んだり、花冠を作って頭に乗せてきたり。可哀想なロベリア。最後は裏切られて殺された。でも、貴女は私を恨んでないんでしょうね。ロベリア、私はそんな貴女がずっと
「嫌いだったわ。」
一筋の涙が頬を伝う。肩に付いた紫の花びらが宙を舞う。暖かな風と一緒に、花びらは私の頬を撫でていった。
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