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痒い
痒い。
真夏のこの時期、身近な心霊スポットだという世田谷の神社に取材に行ったのだけれど、あろうことか、虫よけを忘れた。
終始にこやかな地元のおじさんに連れられ、古い井戸や木に打ち付けられた藁人形を一応写真に収めたけれど、話の内容は上の空。絶えずブンブン飛び回る蚊が鬱陶しくて仕事にならない。
痒い痒い。
私は特に蚊に好かれる体質らしく、おじさんにはまったく寄らない蚊が全部私に集中したのだった。この蚊がイケメンの男ならいいのに。
私は、超常現象を扱う雑誌の編集者をしている。
たった4人の編集部。その中の紅一点。取材は、インタビューも撮影も全部一人でこなす。
ぼりぼり腕や首を搔きながら案内してくれたおじさんにお礼を言うと、私はそそくさとその場を去り、駅へ向かった。
痒い。
あ。ジーパンの上からも刺しやがった。
こん畜生め。
兎に角、一度部屋に戻ろう。シャワーを浴びて、着替えなきゃ。
今日は、夜、もう一つ取材がある。
吸血鬼に会いに行くんだ。
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