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明日は部活でお花見。楽しみで眠れない、という遠足前の小学生のような状態ではない。眠れないとしたらそれは別の理由。しかし、どんな夜でも結局眠ってしまう私は小学生より欲望に忠実な幼稚園児くらいなのかもしれない。 瞼が落ちる前にスマホの通知を確認する。 「明日告るんやろ?頑張ってな!(23:02)」 スタンプとともに送られてきていたのは航輔――同じ部活だった男友達――からの激励のメッセージ。 「いい報告できるように頑張るわ!!(0:23)」 強がりなのか、本音なのか、それともわざとフラグっぽくしておどけているのか、自分でも分からない返事をする。 「花海なら大丈夫や!(0:23)」 私は明日、同じ部活の春輝に告白する。エイプリルフールに乗じて、嘘のようにして本当の告白をする。航輔はこれまでずっと私の恋の相談に乗ってくれていた。昨年の夏、航輔は留学のために渡米してしまい、直接相談することは出来なくなってしまったが、LINEで相談するといつでもすぐに返事をくれた。ここまでサポートしてもらったのだから今更逃げるわけにもいかず、また恋を実らせることこそ彼に対する最大の恩返しだと考えていた。 「明日の部活の花見のあとやんな?(0:23)」 「そう!(0:24)」「うまく二人っきりになれるといいんだけど・・・(0:24)」「あと、どうやって切り出したらいいと思う?(0:24)」 「そこは花海の言葉で・・・。(0:25)」 このことは航輔以外には話していない。他の部員に教えない理由があるわけではないが、教える必要も感じていなかった。強いて言うなら、知っている人が増えればそれだけ春輝にバレる可能性も上がるということだろうか。やっぱり想いは自分の口から伝えたい。 どうやって誘い出そうかな。なんて告白しよう。 緊張、というより不安や寂しさの方があった。片想いが終わってしまうことへの寂しさ。よくあるお祭りが終わってしまうような寂しさに近いかもしれない。ずっと片想いのままで、傷つかずにいたい。くたびれたリラックマを抱き、頭を悩ませるうちに、意識は眠りに溶けてしまった。 おそらく三度目のアラームにようやく起き上がる。 「言うかどうか迷ったけど、今しかないと思ったから伝える。好きです。付き合ってください。(0:28)」「とか(0:35)」 航輔からのLINEだ。昨日のLINEの続きかな。なるほど、こうやって伝えればいいのか。参考にしよう。「ありがとう」のスタンプで返事をする。 軽く朝食を済ませ、支度をし、集合場所へ向かう。 いざ勝負。花見ももちろん、楽しみではあったし、楽しむつもりだった。しかし告白への不安に支配されていた私は、それを心の底から楽しむことは出来なかった。たぶん、友達の目には挙動不審に映っただろう。 ブーッ。通知。 航輔だ。 「花海のことが好きです。付き合ってください。(11:35)」 「ありがと(笑)(11:35)」 ふっと笑ってしまった。これから私が「本気の」告白をエイプリルフールの嘘に紛れさせてしようと言うのに、そんな嘘告なんて。相変わらず不安は残っていたが、肩の力は抜けた気がした。 嘘のような本気の告白。無言の間。 ほんの数秒前、自分の口から出た言葉さえ覚えていない。ただ、握りしめた自分の手首から感じる脈動だけが時間の流れを正確に示してくれる。 鳥が桜を一つ落とした。空気抵抗を受けて、くるくる、くるくる、スローモーションで降る。地面に着かない。まだ落ちない。着いた。 それを待っていたかのようにして、春輝の返事が聞こえた。 時間が再び動き出した。 どうやって報告しようか。昨晩、告白の言葉を思案していた脳みそを使って感謝と喜びの伝え方をひねり出そうとする。 振られたときのことはしっかり考えていた。「サクラチル」と、不合格発表のように伝えて面白おかしくしようと思っていた。なんなら自分の名前にかけて、「ハナチル」としようとさえ考えていたが、やはり語呂が悪いので不採用にしていた。 「サ・ク・ラ・サ・ク!」 削除、削除。 「告白成功した!!ありがとう!」 送信ボタンを押す、のをやめる。せっかくなのだから感謝の言葉くらい、電話で伝えようと思った。トイレに行ってくると言い、立ち上がった私は、みんなからは見えないあたりまで歩くと電話をかけた。 「もしもし?」 「あ、もしもし航輔?あんな?えっと、告白な、成功したで!」 つい声が弾む。悩んだ割にはなんの捻りもないただの事実報告。告白もこんな感じだったような気がする。 「あ、うん、え、まじで!?」 最初、驚きすぎたのか少し平坦な口調だったが、すぐにしっかりと驚いた口調が返ってきた。 「ほんまに航輔のおかげやわ!ありがとう!」 「え?まだ日付変わってへんやんな?じゃあ嘘じゃないんやな?」 「何言うてんの?今は四月一日のお昼やん。エイプリルフールやで。あ、でも成功したのはほんまにそうやからな?」 「あ、そうか。こっちは時差あるからまだ三月やねん。やから、俺はまだ嘘つかれへん。」 「時差あるん忘れてたわ。嘘つかれへんて、さっきベタな噓告したやん。」 「あー。そうか。そうやな。うん。まあ噓告、やな。うん。」 「まあ、あれのおかげでちょっと緊張解けたからありがとう。」 「そらよかったわ。じゃあな、まだ花見中やろ?楽しんでな。また惚気話聞かせてな。」 「うん。ほんまにありがとう。バイバイ。」 もう少しお礼の言葉を述べあげたかったが、航輔の声からどこか「早く電話を切りたい」と言うような響きを感じたので電話を切った。 時刻は日本時間、十二時二十分。 目の前には満開の桜。私の後ろに桜が散っていることを、私は知らない。
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