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活動開始
勉はまず、ひとりで始められる事業について考えていた。飲食店や物販など色々考えたが、勉には旅行会社に勤めた経験しかないため、難しく感じられた。そこで思い付いたのが、会社勤めの時に取得した「大型二種免許」を活用した、観光バス事業だ。勉は数年間お客さんを乗せて走った経験もあるため、自分にぴったりの事業だと思った。
勉は中古で小型バスを買った。最大20人ほど乗車できる大きさだ。バスを走らせると、当時の記憶が蘇った。地方観光地へお客さんを乗せて走ったことや、お客さんたちの笑顔を思い出すと、「またやりたい」という気持ちが強くなっていくのを感じた。
「えー、間もなく発車します。お客様はシートベルトを締めてください。」
そうアナウンスすると、バスはゆっくりと走り始めた。しばらく走ると湖が見えてきた。エメラルドグリーンの水面には水鳥が羽を広げて着水し、優雅に浮いている。
「こちらは彩湖です。周囲に彩り豊かに咲き誇ることから、この名前がつけられたそうです。ちなみに、ニジマスが釣れるみたいですよ。」
乗客たちは皆、きれいな湖に見とれていた。
しばらくするとバスは停車し、各々が自由時間を過ごした。2時間ほどゆっくり自然を満喫すると、バスは来た道とは別ルートで、名所を案内しながら進んでいった。そう、勉は自らが暮らす地域の観光資源を発掘すべく、予約制の観光バスを運行しながら社内マイクで自らガイドをするという、名物運転手になっていた。
運転手だけに留まらず、自らガイドをしながらお客さんと触れ合う勉のスタイルは、観光バス業界にとって斬新なものだった。その姿はSNSで拡散され、週末の予約は1ヶ月待ちが当たり前になった。
事業開始から4年の年月が経ったとき、勉に1本の電話が入った。それは、前職の同期である近藤からだった。
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