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再びの記憶
「もしもし、覚えてるか?近藤だけど。」
「当たり前だろ。何だよ急に。」
「いやー実はさ、俺もリストラされちまって。河原、ひとりで上手くやってるんだってな。」
「言ったろ、見返してやるって。あの時の俺がどれだけ悔しい思いをしたか、ようやくわかったか。」
「そうだな、大変だなリストラされるって。どうだ、俺を雇ってみないか?大型も持ってるし、事務作業ならお前より優秀だぞ。」
「よく上からものを言えるな。それが頼み込む時の態度かよ。」勉は久々にリストラされた時のことを思い出し、心がむしゃくしゃした。
「悔しかったら自分で何とかしろ。もう頼ってくるなよ。」
そう伝えると、電話を切った。勉は、あの頃と完全に立場が逆転したのを感じた。
「しかし突き放す方も楽ではないな。」
勉はそう呟くと、煙草を1本咥えた。ゆっくりと短くなるまで吸われ、そして捨てられる。勉は煙草に自分自身を、そして近藤の姿を投影し、胸が苦しくなった。
後々聞くと、近藤がリストラされてすぐ会社は倒産したらしい。近藤はやはり優秀で、最後まで会社に残されていたが、雇い続けるのに限界がきたとのことだった。
どれだけ優秀でも明日どうなるかなんて誰にもわからない。その日を一生懸命やりきることが大切なんだと、河原は肝に命じていた。
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