#09. ALIVE

3/23
前へ
/114ページ
次へ
─────  デビューしたばかりのロックシンガー、石川ヤスヲに呼び出された優司が深夜のジャズバーへやって来た。  渋谷の片隅…… よく「ホテル街」と称される一角にある、ビルの上階にある店。デビューを果たす以前のヤスヲがベーシストとしてステージに上がり、そして店員として働いていた店だ。 「よう!ユウちゃん。こっちこっち。まぁ、座れ」 「なんスか、ヤスヲさん。こんな時間に呼び出して」  ヤスヲに手招きをされるがまま、その向かい側に腰を降ろす優司。 「単刀直入に言おう。この前の話の続きだ」 「…… どの話っスか」 「オレとジャズバンドを組まないか?」  ヤスヲの発言に優司は大袈裟に頭を抱え、そしてひとつ大きな溜め息を()く。 「あのねぇ、ヤスヲさん。立場わかってます?今や6人目のETメンバーとも囁かれる、飛ぶ鳥を落とすための(やじり)さえも落とすスーパースターの卵なんですよ。  それを今さらジャズバンドって…… それに俺、もうピアノ弾いてないし」  『ピアノを弾いていない』優司。最後に鍵盤に触れたのは、東鹿(とうろく)にある海が見える店、『sweet(スウィート) 16(シックスティーン)』。それもお遊びでだ。 「オレは本気だ…… 最終兵器も用意している」 「な、なんスか…… 最終兵器って……」 「じゃあ、ユウちゃん。誰かのためにもう一度ピアノを弾くとしたら、誰がいい?」  ヤスヲの質問に思いを巡らせる優司。  誰のためにピアノって…… 俺、ボーカルの紺野(こんの)美菜子(みなこ)ちゃんがいたから、Off(オフ) Shore(ショア) Dream(ドリーム)だったからピアノを弾いていたんじゃないか。 「もう、いい思い出ですけどね。高校時代に組んでいたバンドのためにだったら、一肌脱げるかなぁ……」  優司はなぜ、高校時代にピアノを弾いていたのか。それは楽しかった仲間の── 大好きだったOff Shore Dreamのためだったからに他ならない。  Off Shore Dreamがない今、ピアノを弾こうと言う情熱すら湧かない。  でも…… 逆を言えば。今ここにOff Shore Dreamがあったなら。俺はピアノを弾くのだろうか……
/114ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加