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「バンドの、誰?」
ヤスヲの質問に凄味が増す。
「…… ヤスヲさん…… 最終兵器って、もしかして」
そこにヤスヲが控室に向かって目配せをする。それが合図だったかのように控室のカーテンが開いて1組の男女が現れ、そして歩み寄って来る。
優司は暗い店内に目を凝らす。2人とも見憶えがある人物だ。男性のほうはドール・プロモーション社の営業、幸崎さん。え?幸崎さん?
黒縁のまるい眼鏡を掛けた長い黒髪の女性は、美菜子ちゃん。え?美菜子ちゃん!
「久しぶりね、ユウちゃん」
垂れてくる鼻水をすすりながら、搾り出すような声で優司の前に立つ美菜子。
「美菜子ちゃん…… どうして……」
「まぁ、座りなよ、2人とも」
「ヤスヲさん…… あなたって人は……」
登場した美菜子が泣いていることで、ヤスヲも事の重大さを感じたようである。
「ゴメン…… とりあえず飲もうか」
ETERNAL TIMESのボーカル、名取橋崇志のバックアップにより鳴り物入りでロックシンガーとして歩み始めたばかりのヤスヲ。
2枚目となるシングルのレコーディングも終え、アルバムの製作にも取り掛かろうとしている。
そんなヤスヲであるが、違和感を感じていた。
オレは本当に、ロックシンガーが性に合っているのだろうか……
崇志の弟分と称してデビューしたこともあり、興行的にもまずまずのスタートを切ったヤスヲ。何を今さら悩むことがあると言うのか。
そんな矢先の、呼ばれたラジオ番組『ジャム・ジャム・ジャンクション』での優司との出会いは衝撃的なものであった。
同じ高校出身で、3学年下にあたる優司。東京にいても、その噂が耳に届いていたジャズバンドのピアニストだったなんて。これを運命だと言わずに、なんと呼ぶのか。
そして。たまたまヤスヲが入ったジャズバーで、さらなる運命的な出会いが待っていた。
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